3-(1) 「よくもおれを投げやがって! おれを誰だと思っている!」
2
〔
紫色の肌に金色の瞳、とがった耳、豊かな銀髪に包まれた頭部からヤギのような角が生える。漆黒のローブのような布きれをまとった体からは筋肉隆々の腕が伸び、その先端、七本の指からはとがった爪が伸び、そこにはべっとりと血がこびりついていた。剛毛におおわれた太い足の先端からは鋭利な刃物のような爪が生えている。さらに背からはコウモリの翼がはえ、尻からは先端が三叉に割れた尾が延びていた。
〔
開いたローブから見え隠れする紫色の胸には、どこまでも続いていそうな穴が空き、そこから〔
俺の黒い瞳と〔
「逃げろ! オールっち!」
宮直先輩が叫んだ。
それでも俺は動けなかった。足がすくんでいた。〔
瞬間、激しい衝撃とともになにかが起きた。盾を持つ腕と背中に激痛が走り、一瞬意識が途切れてしまって、なにが起きたのか、まったく理解できなかった。
けれどぼやけた意識が鮮明となり、〔
背後の木の緑色した幹は俺がぶつかった衝撃でふたつに折れていた。もしこの木がなければ俺はどこまで吹き飛ばされていたのだろう。
俺がやっとの思いで立ちあがっているうちに、〔
〔
空を切り裂く、不意打ちの一撃。〔
「小娘が、こしゃくな真似を……」
〔
「私はあなたを殺す!」
憤怒のままに立ちあがり、センパイはさらに〔
「やはり〔
そう言いながら〔
いきりたったセンパイが紫色の地面に一歩踏み込んだ瞬間だった、センパイの身体ほどもある火球が上空から襲来。センパイは火球がぶつかる瞬間、転がるように横っ跳び。その場から離れる。火球は紫色の地面にぶつかり、その表面を焦がし、すぐに消えた。
「王、少しお遊びが過ぎます」
その声は聞き覚えのある声だった。その声の主はゆっくりと〔
蘆永だった。蘆永の背にはドクロが描かれたハエの羽がはえている。
「蘆永……どうしてお前が?」
俺はセンパイのそばに急いで駆けつける。
「これは我輩様のしもべだ」
なにも語らぬ蘆永の代わりに〔
嘘だと思いたかった。けれど蘆永の背中にあるハエの羽は、蘆永が〔
「やっぱりキミが……これでいろいろつじつまが合うわ」
けれどセンパイはわかっていたような口ぶりだった。
「どういうことですか?」
「私が〔
それだけじゃないわ、とセンパイは言葉を続ける。
「環境省の秘密組織に私が襲われたとき、蘆永くんに助けてもらったの。あれ、偶然じゃないわよね?」
ええ、と蘆永は頷いた。
「秘密組織に〔
「それもありますが、連中が僕の知らないあなた方のデータを持っているだろうとにらんだので。ちなみにこの機会にG7とOIEKでしたっけ、そこに保管されている〔
「――
〔
「無駄に遊んでいたのは、王だと思いますが?」
蘆永は〔
「ふむ。それもそうだな」と〔
たったそれだけことで俺は寒気に襲われた。震えが止まらない。
〔
「ふむ。〔
平然と言い放った〔
けれど俺が助けに入る前にセンパイは動き出していた。ありえないほどの叫び声をあげて。
「なにを怒っている? お前たちも我らに同じことをしているではないか」
センパイが怒りに任せて振るった湯かき棒を軽々と避けた〔
「やめろおぉおおおおおおおお!」
俺は無我夢中で駆け出していた。仲間たちはみんな戦闘不能に陥っていて、俺しかセンパイを救える者はいない。
あきらめてたまるかよ。
けれどヒーローになろうとする俺の前に蘆永が立ちふさがる。
「どけぇええええええええええええええええええええええ!」
叫びとともに両手に持つ、半分になった
けれど蘆永はいとも簡単に
その間にも〔
もうダメだと俺があきらめかけたとき、突如、〔
〔
「いってぇなあ」
頭を押さえながら立ちあがった今見は〔
「ったく、大変な事態になってるみてぇじゃねぇか」
小刻みに身体を震わせているくせに、強気な発言をしたのは〔
八咲の声が聞こえると同時に、今見は強気を取り戻して言い放った。
「八咲、てめぇ! よくもおれを投げやがって! おれを誰だと思っている!」
「うっせぇ、黙れ! ビビリ。てめぇがさっさと潜らないからオレが投げてやったんだろうが。感謝しろ」
八咲がにらむと今見は押し黙った。
どうやら入るのをためらった今見を八咲が投げ、投げられた今見が偶然にも〔
俺が呆気に取られるなか、調子を取り戻したセンパイが再び、〔
俺は俺と同様、呆気に取られていた蘆永の隙をついて、センパイのもとへ駆けつける。
どうあがいても勝ち目はないのだ。なんとしてもセンパイを止めなければセンパイは殺されてしまう。
蘆永が俺に気づき、火球を手のひらから撃ってきた。
俺の背中へと火球が迫る。俺は振り向いて、右手ににぎる半分になっている
一瞬にして
しかし、炎は胸の欠片に吸い込まれるように消え、俺は無傷だった。いや、痛みすら感じなかった。どうなっているんだ?
「くっくっく!」
湯かき棒を振るうセンパイを蹴飛ばした〔
「
「ええ、そいつです。確信はなかったですが、今確信を持ちました」
「我輩様もだ。たった今反応を確認した」
もう一度、笑うと〔
「そちらから来てくれるとは嬉しいぞ――オール!」
しかも〔
この野郎が! 少しだけ怒りが胸中に蠢く。
「さあ、〔
〔
「オール!」
俺のほうに向かって駆けてくる八咲に俺も叫び返す。
「センパイたちを連れて逃げろ!」
「お前はどうする気だよ!」
八咲の心配そうな顔が俺の視界に映る。
「どうにかする気だよ!」
そう言った瞬間、俺はまた吹き飛ばされていた。訂正――どうにもできないかもしれない。それでもあきらめる気はないけどな。
「ふん、風圧だけで戦うのは骨が折れるな。直接手で触れることがもできぬのは面倒だ。手伝え、
「ほかのやつらはどうします?」
「放っておけ! まずは我輩様の〔
「御意」
そんなやりとりをしているふたりのかたわら、俺は立ちあがる。同時に蘆永は〔
八咲は俺のほうをちらちら見つつも、それでもセンパイたちのケガの具合が気になったのだろう、今見をにらみつけて手伝わせ、〔
視線を前に戻す。
蘆永が手にはめるのは
「ほう、便利なものを持っているな」
感心したようにそう言って、〔
少し泣きそうになる俺を尻目に〔
片手用の剣をそうにぎるのは使いかたを知らないのか、それとも力強く振りおろすためか、その理由はわからない。だがどちらにしろ脅威だ。
対するのは半分に折れた
勝ち目あるのか、と俺は一瞬考えたが、勝たなくてもいいことに気づいた。そう、勝たなくてもいい。けど負けるつもりもなかった。
俺は〔
追い詰められてなのか、このときの俺はさえていた。〔
けれどそれも計算通り。俺は飛ばされるのを待っていた。俺は後方に〔
着地して身を翻し、あと数歩というところで、〔
「我輩様から逃げられると思っているのか。往生際が悪いぞ」
さらに蘆永が空から火球を放ち、俺を牽制する。
「そうですよ、オールさん。逃げたところで、僕が〔
それは確かにそうだ。けどそれでも俺たちの世界のほうに逃げるほうが、ここにいるよりはマシに思えた。
それに蘆永がそんなセリフを吐いたということはまだ〔
そう思ったとき、〔
俺が突き出した剣囲半盾は確かに〔
もちろん、〔
それなのに〔
俺は前につんのめったものの、そのまま止まらず〔
〔
――無数の死体と死骸だった。
俺はすっかり失念していた。そう、こちらには
前門の虎(
グランドと同じぐらいの草原に広がる死体の山、そこには倒れる
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