2-(7) 「夜道を散歩するのが趣味でして……」
7
おばさんに頼まれた買い物の帰り、私は夜道を歩いていた。
「あれはどこにある?」
すると突然、黒服にサングラスの、まるで大統領のSPのような格好の男が話しかけてきた。
「あれ、ってなんのこと?」
私はなにもわからずに尋ねる。
けど、私はなんとなくだがあれがなんであるか、気づいた。
もしかして、兄さんの生前、〔
湯かき棒は風呂場に置いてきたので兄さんの返事はない。
私は兄さんたちが亡くなって環境省の質問攻めに遭った。当然、そのとき、私は兄さんから全てを聞いていたのでしらばっくれた。
それから数年間、兄さんは警戒しろと言い続けていたけど、わたしはもうなにも起こらないと思っていた。
だから〔
なのに、なんで今更、こいつらはやってきたの?
「知らないとは言わせない。一度は持っていないと思ったが面舵大全の孫と接触した以上、やはり持っている可能性がある」
意味がわからなかった。面舵さんの孫となんて私は会ってなどいない。
あっちが知っていて、こっちが知らないなにかがある。それを訊き出さなければならない。
「面舵さんの孫って誰? そんな子、知らないわ」
「また、しらばっくれる気か? お前は自分でチームメイトに入れたらしいではないか。櫂徹夜を!」
その言葉に私は驚いた。櫂徹夜――オールくんが、面舵さんの孫?
オールくんは一言もそんなこと言わなかった。言ってこなかった。
面舵さんは、家族になにも喋らなかったのか、それともオールくんが知っていてなお、しらばっくれているのか、それはわからない。
けど訊いてみないといけない。
でもそもそもこいつらはどうやってオールくんのことを調べたのだろう。
いやでもそれよりもまずはオールくんと会って話をしてみるべきだ。
「いいこと、教えてくれてありがとう」
「なに? 知らなかったのか!」
自分が口をすべらしたことを理解して、その男は銃を取り出す。拳銃ではない、ボンベのようなものがついたおもちゃの水鉄砲に似ている。兄さんが言っていたものだと気づく。だから私は油断しない。そいつが私の口を封じようとその銃を構える。
私は逃げようとはせず、そいつが銃を撃ってくるのをずっと待った。
そいつがトリガーを引く。
銃から出た弾丸は〔
〔
「ちぃ、やはり見習いとはいえ〔
そう呟いた男は口笛を吹く。するとどこかにひそんでいたのだろう、さらに数人の黒服が同じ銃を持って現れた。さすがにこの人数をひとりで相手にするのは無理だ。
そう思ったときだった、出てきた黒服が膝からがくっと倒れた。
なにが起こったかわからなかった私に声が届く。
「女の子ひとりを大人が寄ってたかっていたぶろうとするのは感心できないですね」
そう言って私の視界に入ったのは蘆永くんだった。
「どうしてキミが……」
「夜道を散歩するのが趣味でして……大山先輩に会ったのは偶然ですよ」
「まあなんだっていいわ。それよりもありがとう」
「お礼を言うのはまだ早いですよ。大山先輩は逃げてください」
「キミはどうするの?」
「僕は残ったやつを蹴散らして、また散歩にいそしみます」
「そんな……キミだけじゃ無理よ」
そう言い放った私だったけど、目の前に広がる光景を見て、言葉を失った。
蘆永くんは私と話しながら、しかも私が気づかないうちに、ほかの黒服を倒していたのだ。
「蘆永くん……キミはいったい……?」
「はは、まあ気にしないでください」
そう言って笑う蘆永くんは、初めからいた黒服の襟首をつかんでいた。
「くそ、なんだ貴様は!」
「なんだっていいでしょう。とりあえず、あなたたちは邪魔ということです」
そう言って蘆永くんはその黒服の頭をコンクリートに思いっきりぶつけた。
「さて、終わりましたね」
あたりを見回して誰もいないことを確認した蘆永くんは、
「それでは散歩に戻ります」
そう呟いて去っていた。
私は唖然としていた。彼が助けてくれた理由がわからないのだ。
けれど考えてもらちがあかない。私は家路を急いだ。アイスも溶けてしまうし。
***
家に帰った私はアイスを冷凍庫にしまって洗面所から湯かき棒を取り、自分の部屋に向かった。
「兄さん、今日ね、怪しい集団に襲われたわ。たぶん、あれ、環境省の人間よね?」
――それは本当か? だとしたら……〔
「そんなの私は知らないわ。それよりも、そいつらからいいことを教えてもらったの。面舵さんの孫についてのことよ。ちなみに兄さんはその孫についてどれくらい知っているの?」
――じいさんのお孫さんはじいさんの死後、親御さんと一緒に引っ越したから、よくは知らないね――
「面舵さんの親族を探そうとはしなかったの?」
――今日はやけに質問が多いね?――
「いいから答えてよ。探そうとしたの? しなかったの?」
――しなかった。というよりできなかったね。あの頃は環境省が〔
「だから兄さんたちは十分な準備もできないまま〔
私は今更ながらにその事実を再確認する。
――そう。それで〔
「うん。それで母さんと父さんは殺された。それでも兄さんは〔
――全ては〔
「うん。であのね、どうやらオールくんって、面舵さんの孫らしいの」
――な、なんだってー!?――
兄さん、ふざけてるでしょ。
――そこはあえて言葉に出さないんだね――
紅葉がお風呂からあがったみたいだからね。おばさんは独り言だと思って気にしないけど、紅葉は気にしてくるから。
――オールくんがじいさんのお孫さん……なるほど、確かにそれはいい情報だ。だけどデマってことはないのかい?――
わからないわ。けど確かめてみる価値があると思うの。
――それはそうだけど、オールくんはおばあちゃん似なのかな。全然似てないよね――
気づかなかった言い訳をここでしないでよ。
――と言うけどね、躑躅。人間、意外と気づかないものだよ――
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