1-(9) 「うわーお」
9
センパイが少しだけよそよそしくなった。
いつからなのか、思い出してみると、初実習日の翌日だったように思える。
余談だがその日の実習が始まる前に、薬袋先生から
俺は既に宮直先輩から聞いていたが、「うわーお」とすごいわざとらしくびっくりしておいた。
……さて話を戻そう。
その日、センパイはこう言った。
「ねぇ、オールくん。キミはなんのためにこの科に入ったの?」
そう尋ねられて困惑したが、俺はすぐさまこう答えた。
「名前はわからないんですけど、ある鉱石を探しているんです」
祖父は胸の欠片のことを言うなと言っていた。だから欠片を見せて、これを取り除く方法を探してますなんて言えるはずがない。
けれどこの胸の欠片はおそらく形状からして鉱物だ。教科書に名前がないからわからないが、もしこれと同じ鉱石が見つかれば、なんとか調べて、取り除き方を見つける。
だから俺は鉱石を探していると答えた。嘘はないはずだ。
俺が胸中で言い訳している間にも左胸の欠片が心臓の鼓動とは違うリズムを強く刻み始める。センパイが来るたびに欠片が反応しているように思えてならない。
「そう、なんだ……」
俺の言葉を聞いたセンパイはどことなく落胆したように去っていた。
そしてその日から今日にいたるまで、いや……いたってもセンパイがよそよそしい。あたかもライオンを警戒する野ウサギのような目で俺を見てくるのだ。
男性恐怖症の宮直先輩のように俺と距離を置き、返事をしても、うん、とか、そうね、とか話を切り上げてあしらうような口ぶりだ。
「どうしたんだ、大山先輩?」
八咲が尋ねてきたが俺は「さあ」と言うしかなかった。
「もしかしたら生理が近くて不機嫌なのかもな」
八咲が続けざまに男の俺の前でそんなことをさらりと言うもんだから、俺は対応に困った。
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