1-(8) ――ちょ、熱い、熱い、熱い、って――
家に帰った私はお風呂の湯を冷ますために浴槽に張ったお湯を湯かき棒でかき混ぜていた。
――ちょ、熱い、熱い、熱い、って――
すると湯かき棒が声をあげる。けれどこの声は私にしか聞こえない。
――もうちょっと兄を労わってくれよ――
到底信じられないかもしれないが、この湯かき棒には兄の魂が入っている。
私は兄の声を無視して、兄を使って湯を冷ます。本当なら入浴する人が湯をかくのだろうけど兄が憑依してからはずっと私の仕事だった。
――収穫がないからって怒るなよ、いつものことだろう――
兄はわかったようにそんなことを言った。私は〔
――そう簡単に見つけれるもんじゃないよ。あいつは自分の城に引きこもっちまってるんだから――
兄は熱さに慣れたのか、もう温度に対してはなにも言わず、私をさとすように言葉を投げかけてくる。
――それよりも、今は〔
そんなことはわかっている。だから私は彼をチームメイトにしたの。
――もしかして、迷ってる?――
そんなことは私自身もわからない。
でもなんとなくだけど彼はあいつらとは違うような気がする。
でもだとしたら兄の魂とともに湯かき棒に埋め込まれた〔
――だったら確かめて見ればいい――
どうやって? と尋ねる前に兄は言葉を続けた。
――簡単なことだよ。あの高校に入った理由を訊けばいい。躑躅を調べるためなんて言えないからね、きっと彼ははぐらかす。そしたら彼はきっと黒だね。真っ黒だよ――
でもそんなに簡単にわかるわけないわ。
――確かにね。でも躑躅はほかに手段を思いついてないだろ。だったら試してみるべきだ。それで彼がはぐらかしたら、限りなく黒いグレー。もっともボロを出さずにきちんと理由を言うかもしれない。その場合も警戒する必要があるね。人間、自分の動機をそんなにパッと言えるもんじゃないから――
兄の言葉は妙に説得力があった。だったら、明日試してみよう。
私は湯をかくのをやめた。
それは奇しくも「お姉ちゃん、そんなにお湯をかき混ぜてると冷ましすぎちゃう」という妹の声が飛んでくるのと同時だった。
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