1-(5) 「そもそもこの基礎訓練というのは、〔異界〕に入るための下地作りですの」
5
「あと三周!! おら、急げ! おら!」
基礎訓練科教師の声が飛ぶ。
俺たちは走っていた。これがグランドをただ走るだけならまだいい。
俺たちは昨日自分たちが選択した武器を持って走ることを義務づけられていた。
つまり俺は
「男のくせにだらしないですわね」
汗だくで走る俺に一.五キログラム程度のS
「オール、もっとがんばらなきゃダメだよ」
ボンクラが前を走る音乗の跳ねるお尻を見ながら俺にそう言ってきた。だから俺はとりあえずゲンコツを食らわしてやった。異論は誰も無論ないはずだ。
「なんだよぉ、むぅ」
頭を押さえながら俺を追い越したボンクラもS
対して俺は約十キログラムもある
けど俺はがんばっていると主張したい。なぜなら俺の視線の先には周回遅れの今見がいるからだ。今見は
とはいえ、そんなのは言い訳にしかならない。俺はほかのやつらより一周遅れていて、同じチームメイトの蘆永には三周も差をつけられていた。
その蘆永はさっそうと、そして軽快に走っていた。けどそりゃそうだ、と思う理由もある。
蘆永の選んだ武器は
そんな武器だから重さもたかが知れたもので、ただのマラソンのようにグランドを走れた。
さて、なぜ俺たちが武器をかついでマラソンにいそしんでいるかと言えば、「これが必要なことだから」らしい。
基礎訓練担当の教師は脳ミソも筋肉でできているのかそれしか言わなかった。ノーキンと勝手にあだ名をつける。
「そもそもこの基礎訓練というのは、〔
ノーキンの言葉に困惑する俺たちに向かって口を開いたのは音乗。
音乗曰く、〔
ようは体力作りってことだ。
「おら、しっかり走れー!」
速度が落ちた俺に対してノーキンのげきが飛ぶ。俺は少しだけ速度をあげて、走り出す。蘆永はとっくに走り終わっており、さらにそのさわやかな表情から余裕がありありと見受けられた。
その次にゴールしたのが大山。
「さすが英雄の娘は違うな」と俺の近くを走る学友がイヤミったらしく呟くのが聞こえた。俺はなんだか腹が立ち、偶然を装ってそいつに
その後も次々と学友たちはゴールしていき、俺は下から二番目でゴールした。
言うまでもないが、最下位は今見で、「もう少しがんばれ」というノーキンの言葉に舌打ちをしていた。「おれを誰だと思っている」とぼやいたのが俺の耳に入る。
「おら、さっさと並べ!」
舌打ちに機嫌を悪くしたらしいノーキンが少し乱雑な言葉で整列をうながし、「今週はずっとこれだからな」と言葉を吐き出した。俺の体は恐怖で震えあがった。
そんなことも知らないノーキンはやがて基礎訓練の説明を始めた。
基礎訓練は武器選択の翌日から一ヶ月間、〔
……マラソンは毎週あるんだな。
もっともノーキンの説明は大変にわかりにくく俺は音乗から詳細を聞いた。
チームメイトになってからよく話すようになった音乗だが、〔
なんにせよ、今日から一ヶ月間、俺たちは基礎訓練をすることになった。
そして、その一ヶ月間はあっという間に過ぎた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます