1-(4) 「ぼくは剣って決めてるから。だってなんだか勇者みたいで格好いいだろう」
4
また明日とセンパイは言ったものの、翌日、センパイに会うことはなかった。
ようするに帰るときの常套句だったわけだ。
実習は一ヶ月後から始まるので、それまではたまに学校で見かける程度だろう。
それよりなにより今、俺たちは学校のグランドに不気味にそびえ立つ〔
「今日の午後は、なにをするんだろうねえ」と〔
「なんでここにいるんだ?」
「チームメイトではありませんか」
音乗の言葉に「そうだ、そうだ」と八咲が同意する。今日も八咲は目の下にくまを作っていて相変わらず怖い。音乗や大山は八咲が恐くないのか、もう仲良くなっているように見えた。
ちなみにチームメイトである今見と蘆永はそれぞれ別の人とつるんでいた。
「今日は皆さんに一ヶ月後に備えて武器を選んでもらいます」
星型メガネをかけている個性的な教師の言葉に全員がざわついた。
「はい、静かに。キミたちが武器を持つのは〔
「オール、聞いたかい、武器だよ、武器」
「大げさだろ。俺は〔
「それは大間違いですわ」
俺とボンクラの話を聞いていた音乗が話に割り込む。
「自衛の役割もあるとおっしゃっていたでしょう?」
「それがどうしたんだ?」
「武器は〔
「へぇ、よく知ってるな」
俺は思わず感心してしまう。
「そ、そんなこと常識ですわ、常識」
なぜか顔を赤く染めて照れる音乗の横から八咲が俺に尋ねてきた。
「ところでオール、お前はどんな武器にするんだ? やっぱり剣か?」
どうするかなと言いかけて、俺はとあることに気づく。
「ちょっと待て、八咲。今なんて言った?」
「え、聞こえなかったのかよ。……するんだ?」
「いや変なところピックアップすんな。最初のほうだ」
「オール、って言ったんだが……」
「なんで……そのニックネームを八咲が知ってんだよ」
「凛子さんだけじゃありませんことよ、オールさん」
「そうよ、オールくん」
音乗と大山も俺のことをオールと呼んだ。
「マジかよ……」
俺はorzみたいな感じで地面にへたり込む。
「えへへ、ぼくが教えたんだよ、オール。すごいだろ!」
すごくねぇよ。やってくれやがったな、ボンクラ。
悪意はないとはわかっているが、俺があまりそのニックネームを気にいってないことをお前は気づいていないよな。
「oar《櫂》とall《徹夜》、どっちもオールだもんな。でオレたちは発音的にはどっちにすべきなんだ?」
「好きにしてくれ」
俺はあきらめた。この調子ではおそらくセンパイたちもオールと呼ぶことだろう。
「ほら、お前たちも入れ」
だべっていることに気づいた担当教師が俺たちを〔
俺は思わずその光景に圧倒され息をのんだ。そこにはありとあらゆる武器が収容されていた。そう何を隠そうそこは武器庫だった。建物に入るときに『武器庫』って書いてあるしな。広さは講堂ぐらいあるが、棚やケースに武器が大量に収納されているため、狭い印象を受ける。
入学前から噂は聞いていたが、入ってみれば驚きしかなかった。
そこから好きな武器を選び、申請することで俺たちは〔
「なにを選ぶんだい、オール」
「なんで他人事なんだよ。お前も選ぶんだろ」
「ぼくは剣って決めてるから。だってなんだか勇者みたいで格好いいだろう」
言いながらボンクラはあたかも剣をにぎっているように、上下左右に素振りをした。
「お気楽だな」
ボンクラは本当にお気楽だ。〔
それを俺はうらやましくもあり、うとましくもあった。
さてと、俺は気を取り直して武器をながめた。
なにか身を守れそうなものがいい。自分の目的のためにそれを優先すべきだと考えて歩いているとずいぶんと奥まで入り込んでしまう。まわりには誰もいない。
戻るか、と考えて振り向くと立てかけてある横長の盾が目に入る。長さは目算で百八十センチメートルぐらいだろうか。盾は武器って扱いなのかと思いよく見てみると、両端に剣身が三つ放射状についていた。
到底その武器で戦えるとは思えない。これはないな、と思ったものの、俺はやはり武器を持つことに抵抗があった。〔
そんな反骨精神から俺は盾を選択することにした。
そうして武器庫から出ると学友たちに奇異の目で見られた。
「それを選択するなんてオールのセンスには脱帽だよ」
教師にその武器――
ボンクラは長さ八十センチメートルほどで「く」の字型の刀身と中央をふくらませたにぎりが特徴の
「男のくせに守りに入るとは少し見損ないましたわ」
音乗にそんなことを言われてしまい言葉を失う。身を守ることを優先したの確かだが、そういうものなのだろうか。
「そういう音乗はなにを選んだんだよ?」
「わたくしはこれですわ、攻めている感じがしませんこと?」
音乗は俺に鍔がS字になっている剣を見せつける。長さはボンクラの
それが攻めってことなのだろうか、確かにSMという観点で見ればSは攻めだが、音乗本人が気づいてなさそうだから指摘するのはやめておこう。
音乗の後ろ、八咲と大山も武器を選択し終えていた。
八咲は猪の牙のようにも槍の穂先のようにも見える剣身を持つ長さ百センチメートルの
「なんだよ、文句あるのか?」
八咲は俺をにらみつける。
「文句なんてないさ。ただ、どうしてそれを選んだのかと思ってな」
「ああ? そんなの直感だよ」
八咲はそう言ってのけた。
「なるほど。お前らしいよ」
「だろ」
そう言って八咲は
俺は視線をさまよわせて大山を探す。大山は
「よし、全員が武器を選びましたね。次はマスクの使いかたを説明します。各自、申請時にマスクはもらっているはずですよね?」
俺は申請時にもらったマスクをポケットから取り出す。それは粉塵マスクにとてもよく似ていた。
「
教師が説明を始める前に音乗が呟いた。
「これは空気中にただよう〔
音乗の説明と同じことが教師の口から飛び出たが俺は聞き流す。
「音乗、なんでそんなに詳しいんだ?」
「こんなの常識ですわ」
「そういうものかね」
なんとなしに俺は呟いた。音乗は常識と言うが、少なくとも俺は知らなかった。
「ちなみに空気中にただよう〔
教師もウンチク的にそういう話をしていたが、俺は既に音乗から聞いていたので特になんの感慨も抱かなかった。
先生、ご愁傷様。
「明日から一ヶ月間、武器の練習をしてもらいますので覚悟しておくように」
教師の説明が終わると同時に授業も終わる。
掃除当番ではないので俺はそのまま帰宅。今日は胸が痛むことはなかった。
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