第7話 七色に光る親の威光

登場人物紹介


主人公


邑上仁昭むらかみひろあき 18歳 独身 B型


容姿:短髪の黒髪に黒いジャケットを着た青年、時系列が夏なのでTシャツだけの恰好の時も多い。その顔つきは18相応の物とは思えない顔つきで経験の多さが窺い知れる。


幼い頃に「怒龍組」に拾われ鉄砲玉をしていた生まれつき不死身の肉体を持つ青年。


他の組からも「不死身の幼龍」として恐れられている。


現在は休養のため、丘ノ下橋の喫茶店「immortal」に下宿している。


面倒事と偽善が嫌いな性格で、不死身の肉体を持ったおかげで心が冷めきっている。


丘ノ下橋に住む住人


赤枝あかえありす 15歳 独身 B型


容姿:メープル色の髪で、出会った際は白と水色を基調とした可愛らしい服を着ていた。死にたがっている時でなければ顔は人形のような綺麗さを持つ。


仁昭と同じ不死身の少女であり、仁昭に自殺を目撃されたことをきっかけに彼の妹となる。


感情の起伏が激しく、性格も親しい人と親しくない人とでは対応も異なる。


不死身で死ぬ事ができない事を不幸だと思っている。


會澤紳あいざわしん 61歳 既婚(子(故人)孫あり) O型


容姿:仕事中はこげ茶色のお洒落な革のジャケットを着ているお洒落そうに見える白髪の老人


 怒龍組の組長の怒龍大三郎の元片腕であり、現役の頃幼い仁昭を拾って育てていた。


現在は喫茶店「immortal」のマスターである。仁昭に対しては程よい距離を取る理想の父親像を演じている。


しかし、実の孫に対しては激甘であり、性格も変わってしまうほどに溺愛している。


彼の実子の會澤祐介あいざわゆうすけは3年前に亡くなっている。


會澤明音あいざわあかね 10歳 独身 A型


容姿:おでこを出すように前髪を上に結んだ少女。何時も小学生の女の子らしい恰好をしているが時と場合によってズボンもはいている。


會澤紳の孫娘で、喫茶店「immortal」で祖父に引き取られ暮らしている。


7歳の頃に父親を亡くしている。しかし、性格に暗いところはなく明るく元気で人懐っこい性格である。


時折、自分にとっての闇となる部分に触れたとき、ヤクザの孫である事を思い出させるような殺気を見せることがある。


山野梨芋やまのりう 17歳 独身 O型


容姿:若干茶色に見えるセミロングヘアーをしている。同年代の女子と比べて胸は大きいが、少しぽっちゃりしている。


仁昭に丘ノ下橋駅で怒龍組の組員に絡まれていた所を救ってもらったことで仁昭と知り合う。


父親はサラリーマン、母親は専業主婦だが、祖父は代々続いてきた焼き芋屋であり、彼女も焼き芋が好物。


食べることが好きで、ダイエット宣言をよくしているが続かない。


ありすからは『芋女』と呼ばれている。


怒龍組関係者


彬鷹将すぎたかまさる 38歳 既婚(子あり) O型


容姿:スキンヘッドにサングラスに黒スーツ。説明する必要もないくらいにヤのつく自営業の人。


怒龍組の幹部で、仁昭の上司。スキンヘッドにサングラスとその道にいる事がすぐわかる格好をしている。


ある理由により仁昭に休養を与えた。


怒龍大三郎どりゅうだいざぶろう 59歳 既婚(子あり) AB型


 怒龍組の組長。怒龍組は都内で顔を利かせているヤクザで本拠地は真宿。


堅剛組の組長、「堅剛虎鬼門けんごうとらきもん」や賦支山組の組長、「賦支山渉ふしやまわたる」とは長い間抗争を続けている。




第7話


「久しぶりだなぁ!仁昭、元気にしてたかよ!」


「まぁぼちぼちな……おまえも相変わらずみたいだな恭介」


この男は、怒龍恭介どりゅうきょうすけと言う。


男の癖に髪を少し長く伸ばしており、肩に掛からない程度まで伸びている。


髪はオレンジ色と言えるくらい明るく染められており、ホストの様な見た目をしている。


一見、どこにでもいるただのチャラ男と呼ばれる種の男と思うかもしれない。


しかし、この男の苗字は『怒龍』、俺の組の名前でもある事から想像がつくだろう。


そう、この男は組長の怒龍大三郎の息子であり、次期組長候補の一人である。


「それにしてもサプライズって……こいつが来ることか?」


「ああ……若様がおまえに会いたい、遊びたいと言って何度も連絡してくるからな

 仕方なく今日はおまえを家に引き留めて、夜はこいつと遊ばせようと思ったわけだ」


元幹部の會澤ですら、組長の息子の恭介の事は敬意を払って若様呼びをしている。


それにしても、會澤の思惑の半分は家の手伝いをさせて自分が楽をするため、もう半分はこんな意図を持って俺を留めていたのか。


「で、遊ぶってどこ行くんだ?」


「話が早いね!さっすが仁昭!Best of Cool Guyさ!

 そうだなぁ、まぁまずはここから出てもらうかな

 會澤、こいつの事借りていくけどいいよな?」


「はい、ご自由に……」


會澤は軽く頭を下げると、俺は恭介と共に喫茶店を後にした。




「會澤にだけでなく俺にも連絡して来いよ

 何で当人に連絡せず話を進めるんだ」


俺は恭介に文句を付けると、恭介は頭を掻きながらこう言った。


「いや……素直に行くとさぁ~

 おまえ……断るだろぉ!だから、外堀から埋めて連れ出してやろうと思ったわけ!

 最高に冴えてんだろぉ~俺のやり方は!」


「遊びに関しては相変わらずな」


何故、會澤も敬語で話す怒龍組の組長の息子に馴れ馴れしい口調で話しているのかと言えば、俺はこの恭介と幼馴染だからである。


俺は物心ついた時には怒龍組に拾われていた。その時組にいた同年代の2歳違いの子供。


それが怒龍恭介だった。その時は自分の立場とか、敬語だとかそんなルールは知らなかった。


勿論、大きくなればそう言ったルールは学ぶことになる。


しかし、恭介自身がおまえに敬語を今更使われるのは気色悪いと言った事や、組長に呼び出されて恭介と本当の意味で仲良くする意味でもおまえだけは気軽に接してもらえないかと言った事から、俺は恭介に対して馴れ馴れしく見える態度を取っているのである。


「んでぇ~今日はキャバクラいっくぞぉ~

 おまえも刺激のない生活に飽きてきてんだろ?

 今日は俺の驕りで楽しませてやるよ!」


「やっぱ、キャバクラかよ……もっと他にも選択肢あんだろ……」


俺は恭介の横に付いて他愛もない話をしながら歩いていくと、そこには2台の黒い高級車が停車していた。


そこからは、怒龍組の現幹部の彬鷹と彼の子分たちが出迎えてくれた。


「どうぞ……前の車にお乗りください」


彬鷹将……この男は俺をこの街に案内した男であり、俺に休養を与えた人物。


という事は、怒龍組の二次団体の『彬鷹組』の連中が怒龍恭介の連れと言うわけか。


しかし、疑問点が一つあった。怒龍組直系の彬鷹組の連中が怒龍恭介に付いている事や、守っている事に関しては何の問題もない。


しかし、いくら組長の息子とは言え何ら危害を加える相手がいる情報もないのに、怒龍組の幹部の彬鷹が恭介に付いている事は不自然ではないだろうか。


ちなみにわざわざその幹部が俺をこの街まで送ってくれた理由は、休養を言い渡したのは俺である以上、お前に対する最低限の礼儀だと思ってくれと言っただけであった。


俺は何の疑問も持たずに車へと入っていく恭介を追いかけず、彬鷹にこっそりと話しかけた。


「組長の息子とは言え、身辺警護か何か知らんが幹部が出しゃばるってありえねぇだろ?

 何かあるのか?」


ちなみに彬鷹も幹部クラスで俺よりも遥かに偉いのに対して、敬語を使っていないのは俺の独断だ。一応彼とは子供のころから一緒に仕事をしていてその流れである。


彬鷹も特にそんな細かい事を気にするような男ではないので、何も問題はない。


「……まぁ少し事情がある

 だがおまえは休養中だ……わざわざ話す話でもない……

 早く乗れ……」


俺は納得していないが、彬鷹に急かされるまま車に乗せられた。


どうやら彬鷹は何かのために動いている様だ。


俺は車の後部座席で一緒に乗っている恭介にも念のため聞いてみることにする。


「なぁ……なんで彬鷹がきてるんだ?」


「さぁ~ね……暇なんじゃない、そんなことよりさぁ!

 彬鷹の奴らがケツモチしてるキャバクラ良い娘が揃ってんだぜぇ!

 サイト見てみろよ!」


予想通り、知っている訳がなかった。そもそもこいつは彬鷹が来ている事に何も違和感がないと思っているはずだ。


もうここまで来れば分かる人には分かると思う事実がある。こいつは遊んでばかりで、特に組にも貢献していない駄目息子である。


ただ親の七光りと言う物だろうか。怒龍組組長の息子と言う立場で周りからチヤホヤされ、お金も湯水の様に集まってくるので、それを使って豪遊することで更に人に注目される。


怒龍組の組長『怒龍大三郎』は元々あった組を壊滅させ、下剋上を成し遂げただけあってどんでもない才気と鍛え抜かれた肉体の持ち主であり、俺も初めて姿を見た時は恐怖を感じた。とてつもない気迫の持ち主である。


だがこの恭介には特に才気を感じないし、肉体も俺と素手で喧嘩をしてほとんど何もできずに負けるくらいだ。不死身と言う事を抜きにしても無力化する方法は縛ったりするとか、身体で押さえつけるとか色々あるはずである。しかし、一度もそれを成し遂げたことはない。


頭も先ほど見た通り、幹部の彬鷹が身辺警護をしている事に何時もと違う匂いを感じ取ることができないくらいの鈍さである。はっきり言えば組長の器としてはあまりにも愚かである。


勿論、この男が駄目なのは怒龍組周知の事実である。実際あいつのいない所でのあいつの評価は親の七光りで威張っているただの屑である。


しかし、そのくせ本人は怒龍組を自分が確実に継ぐものであるとそう思っているのだから、余計にタチが悪い。このままでは何時かは彬鷹などの他の幹部に怒龍組の組長の座を取られる事はほぼ間違いないと言うのに。


勿論、怒龍組の幹部の中ではこう言った事実を理解したうえで先読みしたうえで行動している幹部もいる。確かあの男は加藤と言ったかな。その男は恭介を組長に据えた上で自分が恭介を意のままに操り組を乗っ取る方向で計画しているらしい。


恭介のキャバクラの女談義をこんな感じの事を考えながら適当に相槌を打ちながら聞いていると、どうやら彬鷹組がケツモチしているキャバクラの近くまで来たようだった。




彬鷹組の事務所のある、この育江島駅は昼間の静かな雰囲気とは裏腹のホテル街だ。


ビリヤード、ダーツ、雀荘、スナック、風俗店。夜の街に必要なものが多くそろっているが、看板だけで営業していない店が多くあるのも事実だ。


「おい……やっぱりビリヤードやろうぜ

 あそこの……」


「いや、あそこもう看板だけで潰れてるぜぇ!

 てか彬鷹組が潰した、ケツモチの科料が払えなくて夜逃げしたみてーだなぁ

 闇金融にも多額の借金してたみたいだぜ!」


自分の組が潰した所なら覚えていて当然か。


恭介は得意げにビリヤード店の話を始めた。


「てかあそこ!ただのビリヤードやダーツ店っつーより

 最後の方は女性スタッフに無理やらせて、何とか生き残ろうとしてたとこだぜぇ

 おまえ……やっぱエッチなビリヤードしたかったのかぁ?」


「は?そんな事知らねーよ……ただ俺は普通にビリヤードして遊びたいと思っただけだ

 それより、近くにおまえの好きそうな店はないみたいだが?」


「話そらすのうまいねぇ~、ちょっと車で行くのはめんどいところなんだよ

 ここから10分くらい歩くぜ」


恭介はそう言うとすぐに歩き出してしまった。


俺も後をついて歩き、彬鷹を含める他の組員もその後を追う様に歩いてきた。




そこは道が狭く、確かに車が通りやすい場所ではなかった。


そして誰一人すれ違う人間はいない、暗がりの中居酒屋の看板の鈍い明るさや、風俗店の自己主張の強い明るさの看板だけが目に刺激を与えてくる。


恭介と一緒にその暗がりを歩いていると、奥から一人の男が近づいてくるのが見えた。


「怒龍組の組長の息子の怒龍恭介ってやつはおまえか!」


突然現れた男は、茶髪の髪に黒を基調とした黄色の線の入ったジャージを着た若い男だった。

しかし、その口調は若干中国語特有の訛りがあり、中国系の人間だという事が想像できた。


「おまえの知り合いか?」


「そんなわけあるか!こんな奴知らんわ!!」


そんなやり取りをしている時、俺はその男がポケットから何かを取り出すのを見逃さず俺は恭介の前へと出る。


その男は拳銃をこちらに突き付けていた。


「俺は日系の中国人でね、殺し屋をやってんだ

 冥土の土産に教えてやるよ恭介さん、俺の二つ名は『猛禽モンチン』

 素早く、確実に、そして無残におまえを消してやる……」


聞いてもいない事をベラベラと話していて、俺と恭介は唖然としていた。


こう言う中学生が最近増えているようだな。中学生と言うかこう言う人間の事を『厨二病』って呼ぶのだろう。


何にせよ恭介の知り合いではなく、何かしら依頼をされて恭介を始末しに来ている。


休養中に戦いたくはないのだが、ここはお灸を据えてやらなければならないだろう。


「どけよ……あんた!

 どかねぇと……痛い目見るぜ……

邪魔する奴は殺して構わらないって言われてるからな!」


恭介の前に出た俺に向かって殺し屋は銃を突きつける。


銃を持って戦うと言うのに間合いの取り方が下手過ぎる。この距離では俺がどいて恭介に撃てたとしても当たらない可能性も高いし、ただ銃を持って優位に立ったと思っている思い上がりにも甚だしいレベルだ。


俺は護身用のドスは持っているが、銃はない。恭介は銃を持っていないだろうし、持っていたとしても練習してなくて扱えない可能性が高い。


もしこのまま間合いを勢いよく詰めて拳銃を奪い取ることができても、驚いた拍子に発砲して流れ弾で被害が及ぶのだけは避けたい。


つまり、こいつには『俺以外』の対象物に銃を撃たせない様にしなければならない。


とすれば俺のやり方はただ一つである。


「ふん!そんなただのおもちゃ振り回しても怖くなんかないぜ!ガキが!

 おらぁ!!」


俺はわざと素人ぶって相手に掴みかかる様に飛びかかる。


バァン!!と言う大きな発砲音と共に俺の胸に銃弾が撃ち込まれた。


俺は胸に手を当てて、そのまま自然に倒れこんだ。


「馬鹿が……死に急ぎやがって!!

 さーて次はおまえだ!おもちゃじゃねーってことは分かっただろ?

おまえらには恨みなんかねーけど

 俺の報酬のために死んでもらうぜぇ!!」


殺し屋は恭介に確実に銃弾を当てるために、間合いを詰める。


そしてその間合いを詰めた結果、死んだと確信した俺のすぐ近くへとやってくる。


殺し屋が完全に俺を生きた者として認識せず、意識が恭介の方に集中した瞬間だった。


俺はその隙だらけの瞬間を見逃さなかった。


俺は勢いよく立ち上がり、殺し屋の右手に握られていた銃を叩き落とす様に右腕を叩く。


殺し屋は何が起きたのか脳が追い付かず戸惑っている状態なので、そこからは素早く動いて畳みかけられる。


俺は殺し屋を羽交い絞めにし、右腕で強く首を締め上げる。


「ぐうぅ……ううう……な、なんなんだよ……

 い、いったい……なに……が」


恐らく銃を叩き落とした時には事象として何が起こったのか脳が認識していなかったはずだ。


そして首を絞められ、意識が遠のく中ようやく今自分が置かれている状況と起こった事象に気づいたに違いない。


しかし、脳が認識してもそれを頭で消化することはこの男にはできないだろう。


何故ならこの男に俺が不死身である事が分かるはずがないからである。


俺は窒息死しない程度に首を絞めて、ぐったりとした殺し屋をそのまま床に寝かせると、思い切り倒れこんだ体を踏みつける事で殺し屋を押さえつける。そして、後ろからやってくる彬鷹が来るのを待った。


「よくやってくれた……」


彬鷹が俺の肩をポンと一回だけ叩くと、俺は踏みつけた足をどかして一歩身を引いた。


そして彬鷹は倒れていた殺し屋を腕力で立たせて壁に思い切り叩きつけて、壁に押さえつけながら顔を近づけてこう言った。


「答えろ……誰の命令で動いていた?」


「う……そんなの……教えるわけねぇ……だろ」


強情にも答える気のない殺し屋に対して、彬鷹は腹に3発ほどの拳を入れ、そして容赦のない蹴りを入れる。


彬鷹の恐ろしい所はこう言った攻撃に何の発声もない事だ。口数の少ない男だが、戦う時や拷問の時に攻撃する際、「おらぁ」だとか「うおぉ」だとかそう言った発生を一切しない。


無言で思い切りの良い拳を叩きこみ、無言で身が裂けるような勢いの蹴りを入れる。


何の発声もせず、機械の様に拳を振るう様はドスの利いた声を聞かされるよりもよほど恐ろしいかもしれない。しかも、彬鷹の見た目はスキンヘッドにサングラスとかなりヤクザの怖い印象を象徴する姿だ。


殺し屋の痛がる声は一切無視である。掛ける言葉は何一つない。そのまま拳や蹴りを問答無用で入れ続ける。


「うぐぅ……ゆ……ゆるしてくれ……

 お…おれぐほぉ……が……わるか……ぐはぁぅ……」


殺し屋が許しを請おうとしている中でも容赦なく無言の暴力が続く。許しを請う段階になっても手を止めるな、必ずそう言ってから最低でも10発以上は殴り続けろ。俺は彬鷹のある言葉を思い出していた。


これは俺がまだ小さい頃、彬鷹に相手を拷問して口を割らせる際に肝に銘じておく事として初めて教えられた事だった。勿論、内臓の破損や命に関わる部位は執拗に殴らず、できるだけ神経が集中していてそこが損傷を受けても直接死には至らない部分を満遍なく殴るという事が前提の上での話である。


そう言えば彬鷹は内臓を執拗に殴るなと言った時、拷問してると思ったら……相手の内臓がないぞう……ってことにならないように気を付けろよ……と言ってたな。言われたときは頭にハテナマークしか浮かばなかったが、あれは彬鷹なりの身体を張ったギャグだったんだろう。恐らく……全く笑えないが。


彬鷹は10発どころか20発近く殴りつけた。殺し屋は青紫色の痣や口からは血が出ており、酷い様子になっている。


力なく倒れ横になっている殺し屋の男。彬鷹は殺し屋の髪の毛を掴み上げ、頭を持ち上げるとその持ち上がった事で無防備になった首にナイフを近づける。


「ひ、ひぃ…..あ、あんたら……なな、なんなんだよ……」


「もう一度だけ聞く……誰の命令で動いていた?」


彼は拷問で口を開いたのは初めの質問とこの質問だけだ。


殺し屋涙を流しながら、口をパクパクとさせている。


その様子を見た彬鷹は無言でナイフを更に首に近づける。


「わ、わかった!!い……言うよ!!

 俺は賦支山組の『大石』ってやつの命令で動いてたんだ!」


賦支山組、怒龍組にとっては堅剛組と並ぶ敵対組織の名前だった。


それにしても間一髪だった。もしあのまま答えなければいくら彬鷹でも首を切る真似はしないと思うが。


指の一本や二本は平然と切るし、目を切りつけて失わせることも平気でやってのける。


とは言えこれくらいで吐かなければ時間が掛かりそうだから、そのまま事務所に持ち帰って拷問して聞き出そうとするだろうが。実はここで聞かれたことに素直に答えても事務所に持ち帰られる事は免れないのだが……


俺はここで人に指が切られる様や人が失明する様は趣味が悪くて見ていられなかったので、少なくともここでやられる事はなくて安心していた。


「そうか……やはりな……

 若様、私はこれからやることがあるので……失礼させて頂きます」


彬鷹はふと立ち上がってこちらを見て恭介にこう言った。


「えー!別に俺は殺されそうになったことなんて気にしてねーよ

 彬鷹もたまには仕事なんか忘れてキャバクラで楽しもうぜぇ!」


先ほどまで自分が殺されようとしていた事など気にもせず遊ぶことを考えている様だ。


いくら不死身の俺や幹部であり、手練れの彬鷹がいるとはいえ、自分が殺される気など一切してなかった心境だろう。


「お気遣いありがとうございます……

 ですが、私にはまだまだ仕事が残っていますので……それでは」


「ちょっと待て!」


帰ろうとしている彬鷹を俺は引き留める。そして俺は彬鷹の近くまで来て耳打ちをする。


「あんた、まさかとは思うけどこうなる事分かってたんじゃねぇのか……

 何も起きていないのに幹部クラスのあんたが護衛に回るのも不自然だし、何かしら殺し屋が恭介を狙っている情報を先に入手していて護衛に回っていたとしか……」


俺が彬鷹にそう言うと、彬鷹は表情を変えずにただこう返した。


「その通りだ……だがこれ以上話すことはない

 おまえには関係のない話だ……」


そう切り捨てて、すぐに殺し屋の方に向き直る。


「あの……俺はかえって大丈夫だよな…… 

 依頼主は言ったし、賦支山組が絡んでるってわかったし」


殺し屋この期に及んで自分が白状したからそのまま帰れると思っているらしい。


呆れて物も言えない状態だが、彬鷹は何一つそんな表情は見せず、淡々と話す。


「……依頼主を売って自分が助かろうとはな……

素人の殺し屋はこれだから困る……」


「えっ?」


「悪いがおまえみたいに自分の仕事にプライドを持てない人間は嫌いだ……

 そんな人間に慈悲はない……おまえの知っている事……吐くものがなくなるまで吐かせてやる……」


殺し屋は恐怖で震えながら、彬鷹組の組員に強引に連れていかれる。


そして彬鷹は別れ際に……


「一応だが……発砲されている……

通報されていると面倒だ、早くその場を去れ…...」


そう俺に言い残して、そのまま彼は来た道を戻っていった。


殺し屋……確か、『猛禽モンチン』と言う名前だったな。


恰好や手際からも見て取れるお粗末な仕事ぶりだった。完全に名前負けしている。


それにしても賦支山組は、こんなバイト感覚で殺し屋をしている人間を雇うくらいしか金が出せないのだろうか?それともちゃんとした殺し屋を探す伝手がないのか?俺達を舐めているのか?何を考えているのか分からない連中だ。


そして賦支山組は俺からあいつ……春海を奪った。


休養から復帰できたとして、賦支山組を叩くと言うのであれば参戦したい気持ちは大きくある。


隣にいる恭介には何も分からないであろうことを考えて歩いていると、恭介は突然俺に話しかけた。


「おまえさぁ……俺がわざわざぁ休養中に呼び出した理由が!

 おまえをキャバクラに連れて行って遊ぶためだとか思ってんじゃねーの?」


本当にさっきの事は何も気にしていない様だ。


ここまで鈍感だとある意味大物なのではないかと錯覚してしまう。


「ああ思ってるよ」


俺は恭介の質問に何も考えずに即答すると、彼はがっくりした様に肩を下す。


「即答かよ……まぁそれはそうなんだけどさぁ

 でもそれだけじゃねーんだよな、おまえに用意してるサプライズは」


「何だと!?」


「これで少しは楽しくなんだろ?

 まぁ……おまえにとってはめんたま引ん剝くような話だから楽しみにしとけよ!」


続く

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