第6話 必殺の技にて、団地巨女を破れ!
この『
それ即ち、「脚も歩けば
見目麗しきトキメキの脚線美を衆目に晒すからには、無差別の当たり屋を、いついかなる時でも覚悟しなければならぬ。
これをお読みになっている賢明な諸氏には、この人生訓だけでも憶えて帰って行ってもらいたい。
さてでは一方!
団地内での密やかならざる戦いを開始した、網タイツ巨女と黒スト女、剣脚二人の戦いの行方や如何に。
剣脚でありながらこうも容易く、自らの脚を敵前に曝け出したのは、ボティコンワンピの網タイ巨女こと、
某に当たるどころか、鋭き美脚で腹を裂かれ胸を斬られ、ズタボロのサンドバッグのような有り様である。
だが、しかして。大上段に振りかぶった、物干し竿が如き長物の太刀=美脚は、とどまることを知る由もない。
一切合切、斬り捨て御免を意に介さずに、蹴人の蹴りはクレイモアの如き質量を持って、ゆるりと
「全く怯まないってわけか。恐るべしはスーパーアーマー」
我らが剣脚、ショートパンツにデニール低めの薄黒ストを魅せつけた
「だからスーパーアーマーって何だよ礼賛?」
尋ねる
「斬りつけられてのノックバックを、耐久力と体力で完全無視し、そのまま強引に襲いかかってくるという恐るべき剣脚の御業さ。攻撃特化の薩摩示現流に端を発すると言われている」
「なんだよその無茶苦茶な話!?」
「同感だ」
解説しつつも月脚礼賛、相手取った網タイ剣脚・真壁蹴人のスピードの遅さにこれ幸いと、幾度も幾度も幾度も幾度も四方八方、黒スト美脚にて斬りかかる。
ところがその攻撃、真壁の身体に傷をつける端から、見る見る治癒していくではないか。
「鉄人に傷を負わせようとしたって、無駄だよお姉ちゃん」
そうつぶやいたのは、網タイ巨女の脚に捕まる、小さき男子。
白き柔肌の眼鏡少年にして鉄人巨女の購入者、
「見てよこの、鉄人の鉄壁のボデーを支える、スラリと伸びた長い脚を。そしてこの脚に纏った、網タイツを。これはね、特殊強化合金を編み込んだ、鉄人専用の網タイツなのさ」
「特殊強化合金網タイツ……!」
「そうだよ、月脚おねーちゃん。僕の鉄人の網タイツは、鋼の硬度を持っているんだ。網タイツであり
「成程、それでこの音か」
真壁蹴人の振りかぶった脚を、額に汗して斬りつける、月脚礼賛。
たしかにこの丁々発止のぶつかり合い、美しい脚同士がぶつかり合った時特有の、あの「キン」という硬質の音とも違う、一種変わった音が響く。
衝撃を吸収し、それでいてドシンと跳ね返す。鉄条網が如き二種混合編み糸素材が縦横無尽の網目に描き出した、セクシーで大人の香り漂う装いであった。
「ま、待てよおい。頑丈なのはその網タイツのおかげだとしても、傷が塞がるその回復力はなんなんだよ?」
「あれはな、ゴーマル。奴が履いている赤いヒールにその秘密がある」
「ヒール?」
ヒール(踵)!
それは剣脚が自らの脚のラインを際立たせて美しさを世に知らしめ、切れ味を増すための、マストアイテム。……だけにはとどまらぬ。
「名は体を表す」という古語をご存知だろうか。言葉には深遠なる意味が宿り、言霊として一人歩きを始め、高い高いハイヒールは、
高治癒力=ハイヒールと言うわけである。
とは言え彼女たちは、その美脚でチャンバラをこなす戦いのプロ。疲弊し摩耗するストッキング類を守るためとはいえ、高過ぎるヒールを履いて戦うことは、著しい捻挫の危険性を招く。
その為、なるべく動きやすい履き慣れた靴で戦うことが、剣脚の常識だとされているのだが……。
「あのデカ女、自らの恵まれた体格と体幹を最大限に利用して、ハイヒールを履きこなしていやがる。
「感心してる場合じゃねえぞ、礼賛! こんなバケモノに、勝てるのかよ?」
「鉄人はバケモノじゃないよ、果くん!」
「あ、わ、悪ぃ」
友達からのツッコミに対して思わず頭を下げる果轟丸。
だが、しかして。何度斬りつけられようとも、腹をえぐられようとも、脚を刻まれようとも、びくともせずに天井をぶった斬りながら長身美脚を進ませてくる網タイ巨女を見やれば。
耐久力と回復力を兼ね備えたこのヒーリングファクターレディーは、ある種バケモノと呼ぶに相応しい立ち姿である。
「鉄人はバケモノなんかじゃないんだ……。僕の大事な鉄人なんだ。このボデーと、この脚は、僕のものなんだ……。ふふ、ふふふふふふ」
笑みを浮かべて軸足にしがみつく小木少年。
か細い指を網タイツの隙間に滑らせて、肉薄しつつのゼロ距離美脚見物を、この年にして一生分は堪能している。
陶酔した視線をたたえる眼鏡は鏡面のようにして、眼福この上ない光景を、レンズにアリアリと映し出していた。
ストップ・ザ・青少年! 変態眼鏡小僧にご用心! などと断ずるなかれ。
小木少年は剣脚を買った身として、果たすべき役目を万全に果たしているのだ。
のんびりに過ぎる動きで斬りかかってくる真壁蹴人の網タイ大太刀の、スローモーションの美しさ。それを小木少年が余さず見届ける事により、切れ味と破壊力を倍増させているわけだ。
いかに鋭い太刀筋であっても、それが衆目を集めることすら叶わないとなれば、美脚の切れ味が落ちることは必至。見えない超絶美脚より、目に見える美脚がより強い。
つまりはこれ、理にかなった牛歩剣術なのだ。
「このおっとり刀、今のうちに止めなければバッサリやられるな」
「だったら礼賛、逃げりゃいいんじゃねえの?」
「はっはっは。そいつをお前さんが言うか、ゴーマル」
「なんだよ、剣脚の戦い方に素人が口出すなってのか」
「いいや違う。ゴーマル、わたしはお前に買われたんだぞ。この町の、気に入らない剣脚共を、全員ぶった斬れと言われてな」
「そ、そりゃそうだけど……」
逡巡しながら轟丸少年は、目の前の対戦相手を垣間見た。
同じ学び舎に通う友人であった小木少年と、窮地を救ってくれた剣脚・真壁。
「こいつら相手にして、戦う理由って別になくね? むしろ、恩がある……ってやつじゃないのかよ」
「確かに、一宿一飯の恩義は感じている。だがな、聞いただろうゴーマル。あのデカ女、わたしに送られた『
「つーかその、『
「……月脚礼賛。貴様を狙えと、金で雇われた」
ここに来て口を開いた真壁蹴人、重要な言葉をポツリと呟いた。
この言葉には、小木少年ですら驚いたようである。
「そうなの、鉄人? 僕も知らなかったよ?」
「……暮らしていくには、金はかかる。脚で稼ぐしかない」
「そ、そうなんだね……」
小木養蜂がうつむきつつ網タイツを見つめれば、長身美脚につたわる糸は縦横無尽の阿弥陀くじ。
なんという人生模様であろう。暮らしを守るために金を稼ぐは女、戦うべき相手は友人もしくは恩人だ。
「わたしにも事情はある。相手にも事情はある。ゴーマル、お前にも事情はあるだろう。そうした事情を切り伏せてまで進むこと、それが『全ての剣脚をぶった斬る』ということだ。どうだゴーマル、今からでも考えなおすか?」
「……」
果轟丸は、即座に返答を寄越さなかった。
その間にも天井のコンクリートをなます切りにし、悠長かつ雄大に、怯まぬ脚は迫ってくる。
「……返品、不可なんだろ。礼賛」
「ああ」
「いいよ、切っちまえ。お前の言う通り、オレにだって事情はあらあ。オレが買ったんだ、オレが責任は取る!!」
「毎度あり!」
決意確認、購入意思決定。そうして再び向かい合うは、目前の不死身の剣脚であった。
小木少年の「こ、こっちだって負けないからね果くん!」の声を聞くまでもなく、事実、こいつはちっとも負けない。
切って捨てても効かないのだから。
振りかぶった太刀をなかなか切り落としてこないとはいえ、止める術無く逃げる気もなしとなれば、一分後に待っているのは確実な敗北である。
「ぶった斬るのはいいけどよ、このデカいねーちゃんにどうやって勝つんだ、礼賛?」
「相手が相手だ、致し方なし。手段はもう選んでいられない。必殺技を披露しよう」
「必殺技!? そんなんあったの!??」
目前の網タイ剣脚・真壁蹴人は、巨女という割にはその姿、あまりに現実的なサイズに過ぎた。
身の丈は、せいぜい百九十センチを超える程度。真っ赤に染まったピンヒールの上げ底を加えても、二メートルに届く程度の背高ノッポである。
ところが、刀たる脚をふるい上げる、その姿の
そこに立ち向かうショートパンツに薄黒ストは、風車を相手取るドン・キホーテにも見える。
イメージが産んだこの巨女、必殺技であれば倒せるというのか、月脚礼賛。
「月脚流剣術、奥義」
ショートパンツから覗く
いやこれは円ではない、月だ。
礼賛に足る月脚が、今まさに昇った!
欠けることのない真円を、黒スト美脚が描き出す。
「半 月 殺 法 !」
裏切りの脚はその頂点にて軌道を変え、踵落としとして一気呵成に切って落とされた。なんともはや、円月成らぬ半月こそが、この必殺技の本領であったのだ。
直下斬撃、真壁蹴人を寸断!
自らの血潮によって巨女剣脚は、その脚も胴も真っ赤に染めた。
真紅のピンヒールとのコーディネート、全くもってお
『K.O.』! 勝負は決した!
「……がはっ!!」
真壁蹴人の斬られた体は持ち前のヒーリングファクターにより、寸時、繋がりを取り戻す。
網目の中にみちみちに込められていた、破壊神が如き美脚の切れ味は、戦闘の集中力が切れたことにより雲散霧消し、切れ味を大幅に衰えさせる。
バランス崩してドスンと倒れ伏せる真壁蹴人。その余波で切り捨てられる、小木家を含む団地の一角。薄っぺらいコントのセットのように、壁や扉やエレベーターホールは倒壊に向かった。
「こ、こ、これ、まともに振り下ろされてたら、この団地自体が吹っ飛んだんじゃねーの……?」
「そうだな……。真壁蹴人、恐ろしい剣脚だった」
「鉄人! 鉄人ってばー!!」
泣いて巨女にすがる小木少年。ほんの一瞬とはいえ、愛する剣脚の体が二つに別れたのである。その心配たるや、計り知れないものがあるだろう。
繋がったとはいえ、命の保証が果たしてあるものなのかどうか。
――さて、一方その頃。
秘書室にて執務を執り行っていたガーターストッキングの有能秘書。彼女がぴくりと眉を動かしたのは、“それ”を感じ取ったからである。
また、場所は変わって、モルグが如き暗室にかいま見えるは、白タイツのナース。同じくこの女も、“それ”を感じ取っていた。
“それ”とは。
「ついに使ったな? 必殺技を!」
次回、剣脚商売。
対戦者、ガーターストッキング秘書か、白タイツナースの、どっちか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます