第8話 祭典の夜は更けて

 そして迎えた当日――。

 時刻は週末の夜。天候設定は一日、雲ひとつない快晴。【ルインズエイジ】の時刻設定は現実のそれと同期しているから、ゲーム内でもいまは夜だ。空には無数の星が輝いていて、建物の窓からはほぼ例外なく明かりが漏れていて、大通りの両側には煌々と光る街灯が狭い間隔で並んでいる。

 満天の星空に抱かれた不夜城という光景は、現実では見ることのできない幻想的なものだ。だけど、街中を闊歩しているアバターたちのなかで、明るい地上から見上げる星空を楽しんでいる者の姿は見つけられない。道行く彼ら彼女らは、今夜これから始まる一大イベントについて話すのに夢中で、前を見ることすら覚束ないような有様だった。

 よくよく見れば、そんな彼ら彼女らはみんな、同じ方向へと道を歩いている。やがて他の通りからやってきた連中とも合流して、通りを埋め尽くすほどの大集団になりながらさらに進み、巨大な円形の建物へと呑み込まれていく。

 その建物は見た目が似ていることから闘技場コロッセオと呼ばれている。そして今夜、この闘技場で行われる催しは、その呼ばれ方に相応しいものだった。

 略奪PKチーム『夜を穿つ黒騎の神槍』と、討伐PKKチーム『九天を照らす神遣う方舟』の決闘――それが今夜、闘技場でついに行われるのだ。

 今夜、【ルインズエイジ】にログインしているプレイヤーの大半が、探索ではなくこの対戦を目当てにしていると言っても、きっと過言ではない。だって事実、【ルインズエイジ】のゲーム内で一番大きい多目的施設が超満員になっているのだから。

 さて、決闘の進め方についてだが……これは両チームと協議した結果、五対五の集団戦を三本勝負ということになっていた。両チームの代表として選出された精鋭五名の名前についても既に発表されていて、観衆の興味を煽る一助になってくれていた。

 時間は刻々と流れ、いよいよ戦闘開始の時刻が迫る。

 わたしと相方ちゃんは一段高いところから階段状に観客席ではなく、主催者側の一員として、これから戦う選手たちの立つ試合場の横に控えている。いちおう座席は用意されていて、そこに座っていた。

「ねえね、お姉さん。シュバとアーク、どっちが勝つと思う?」

 わたしの隣に座っていた相方ちゃんが耳打ちしてくる。大きな声で言わないのは選手たちに聞かれるかもしれないからだ。

 ちなみに位置的には、わたしたちが座っている左右にシュバとアークの団員たちが分かれて控えている。距離もそれなりにあるし、観客席から響くざわめきもあるから、べつに普通の声で話していたって選手たちの耳まで届くことはないだろう。それでも、相方ちゃんが声を低めてしまう心理が、わたしにも分かった。

 わたしたちの両翼に設けられたベンチには、選手の他にも付き添いの団員数名が控えているのだけど、両チーム合わせて総勢十六名になる彼ら全員の顔は、ものすごく……すっっごく怖かった。

 もともとヤクザか山賊団みたいなシュバの人たちは、さらに凶悪な狂犬みたいな顔をしているし、もっと理知的で警察官的なイメージだったアークの面々も、両目を爛々と燃え盛らせている。

 PKもPKKも結局のところ、対人戦という意味では同じことなのだ。

 メールやチャット主体での遣り取りを続けているうちは実感がなかったけれど、彼らはどちらも、わたしたち対人戦に興味のないプレイヤーとは違う生き物なのだということを、わたしはいま、肌を焦がす熱気として痛感していた。

 雰囲気や威圧感という、いわゆる五感以外の感覚を仮想現実として再構築できるのかどうかについては、いま現在も専門家だとかが激論を交わしている問題だ。

「いわゆる雰囲気というのは、感覚器から受容された環境情報が意思や経験則に基づいて複合的に判断された結果として出力される概念のことである。つまり、感覚器から客観的な事実として収集した複数の感覚情報を指向的に統合したものを雰囲気などと呼ぶのである。ある人からある種の匂いを鼻から、容姿体型の情報を目から収集した場合、脳はこれらの情報を統合して、“好みの人”あるいは“嫌な人”という第一印象を意識上に出力するというわけだ。だから、五感情報から第六感を算出する関数を定義できれば、仮想現実内に第六感を再現することは可能である」

 という意見があるかと思えば、

「いや、それは違うと思います。いわゆる第六感というものは五感とは異なる別個の感覚として存在していると、わたしは考えます。では、第六感を受容する感覚器とはどこにあるのか? その答えは意識です。意識とは、五感からの情報を統合および偏向させるための装置ではありません。意識そのものが環境情報、いわゆる第六感と呼ばれる感覚を受容する感覚器なのです。目や鼻などで受容された情報は一度、色や匂いといった知覚可能な形に出力されてから意識へと受け渡されるけれど、第六感だけは受容された情報そのままで扱われます。それ故に第六感は、具象的な客体をもたない抽象的なものとしてしか認識されないのです。従って、意識の第六感を受容する器官としての機能を再現できなければ、仮想現実のなかに第六感を再現させることは不可能だということです」

 異なった意見を唱える専門家もいる。

 この他にも色々な意見が提出されているみたいだけど、実際に「第六感の再現に成功しました」という話はまだ出ていない。けれども、今回の決闘にもアーク側の選手としてそこに立っているプレイヤーが、過去にネット配信された対談で語っていたことがある。

「僕は、第六感というものの情報化は既に成功していると思っていますよ。少なくとも【ルインズエイジ】では、プレイヤーが発する殺気や気配というものは確かに情報として出力されています。なぜそう言い切れるのか? 僕には感じ取れるからです、殺気や気配といったものが――ああ、ただし感じるのはプレイヤーアバターからの気配だけです。MOBから感じたことはありません。だから、僕が対人プレイヤーなのは、MOBよりプレイヤーのほうが戦いやすいからでもあるんですよね」

 まとめサイトに保存されていた対談動画で、人間種族の男性アバターをした彼は、そう言って爽やかに微笑んでいた。

 ちなみに述べると、この対談で語っていたプレイヤーは『九天を略』の顔と呼べる上位戦力であると同時に、職業プロプレイヤーでもある。【ルインズエイジ】のなかで探索や討伐をして稼いだ銀貨を現金に兌換して、現実的に収入を得ているプレイヤーの一人だ。

 プロと呼ばれる、あるいは名乗っているプレイヤーが必ずしも強いというわけではないけれど、彼の場合はプロと呼ばれるほど稼げるだけの強さがあったから、プロなのだった。

 今回の決闘でも、選手が発表される前から話題に上がっていたし、アーク側の選手として発表されてからは、

「あの人が戦うところを生で観られるなんて嘘みたい! 絶対、観ないと! 前売り券、絶対ゲットよ!」

 という声がそこかしこで上がって、チケットの売れ行きに大きく貢献をしてくれた。

 達人とか剣聖とか呼ばれることもある彼が、この決闘の勝敗を左右する人物なのは間違いなかった。

 アーク側は彼をどう自由に戦わせるのか、シュバ側は彼をいかに封殺するのか――それが戦いの見所だと目されていた。

「ねえねっ、お姉さんってば。あたしの話、聞いてる?」

 ふいに横から腕を引っ張られた。そちらを向くと、相方ちゃんが唇をとがらせ、頬をぷっくり膨らませていた。

「あ、ごめん。聞いてなかった……何の話だったっけ?」

「もうっ! アークとシュバ、どっちが勝つかなって聞いたんだよぅ! ばかぁ!」

「ああ、そっか。ごめんごめん。ええと……」

 わたしはわざとらしい咳払いを挟みながら、頭を大急ぎで回転させて言った。

「ええと、そうね……わたしはやっぱりアークが勝つと予想かな」

「それってアークには剣聖がいるから?」

「うん。噂しか知らないけれど、相当強いそうだし」

「それに結構、格好いいよね」

「まあね」

 相方ちゃんのミーハーな意見に、わたしも苦笑しながら一応は同意した。アバターの顔立ちなんて、いくらでも好きに作れる。街を歩いていれば、右を見ても左を見ても美男美女の見本市だ。むしろ個性的な見た目のほうが好ましい第一印象を抱けるくらいだ。そうした観点から見ると、剣聖さまの容姿は、よくいるハンサム、だった。

「お姉さんって結構、男の趣味が細かいよね」

 相方ちゃんが目を細めた呆れ顔で言ってきた。

「そんなつもりはないんだけど……ああ、たぶんあれね。最初に会った男性が顔だけはイケメンな人だったから、その手の顔に良い印象が持てないのかも」

 わたしの脳裏を過ぎるのは、いまもまだ形だけは残っているかもしれない、あのチームの団長だ。

「……なぁるほど」

 色々と端折ったわたしの話に、相方ちゃんは追求することなく納得してくれた。分かってもらえる嬉しさに笑顔が零れる。ちょっぴり悲しい笑顔だった……かもしれない。

 わたしと相方ちゃんが取り留めない話題に興じていると、どこからともなく、ごぉんごぉんと重低音の鐘声が鳴り響く。騒がしかった観客席が一瞬にしてぴたりと静まり、直後、うわあぁと大歓声が沸き起こった。

 試合場の平らに固められた土の地面を踏み締めて、両翼から五名ずつが中央へと進み出る。そして、直径百メートルほどの円形をした試合場の中央で、およそ十五メートルの距離を挟んで対峙した。

 観客席に巻き起こっていた響めきが急速に静まっていく。試合場で睨み合う選手たちの気迫が、観客の興奮を呑んでいるのだ。いまだけは確かに、殺気や気迫という感覚情報が存在していることを、観客の誰もが――もちろん、わたしも認めざるを得ない気になっていた。

 存在していない鐘の音がもう一度、ごぉんと鳴り響いた。同時に、十名の戦士たちが弾かれたように地を蹴って、激突した。

 アーク側は、大きな盾を構えた一人が前衛となり、その影に潜むようにして剣聖と呼ばれる彼が進み、残りの三人が弓や魔術で援護する――という陣形だ。それに対するシュバ側は、それぞれ細剣レイピア、槍、戦棍メイスを構えた三人が躍り出て、杖と魔導書を装備した後衛二人が魔術の詠唱に入っている。

 最初に剣劇を響かせたのは、シュバ前衛の一人が扱き出した槍と、アーク前衛の構える大盾だ。

 前衛武器のうちで最長射程の槍と、攻撃力より防御力を選んだ証である大盾との激突は、ぎぃん、と激しく火花を散らせる。そこへすかさず、シュバ前衛のうち残っていた二人が左右から斬り込んだ。

 大盾の持ち味は前面に対する防御力だが、敏捷性には欠けるため、多方向からの攻撃にはけして強くない。シュバの三人はその弱点を的確に突いてきたわけだ。

 けれども、アーク側の戦士たちも、それを黙って見ているわけがない。

 アーク側のもう一人の前衛――剣聖と渾名される彼が、大盾の死角に潜り込んだ敵の一方に向かって、滑るように迫りながら両手を閃かせた。一閃、いや二閃だ。剣聖の得物はわたしと同じ、湾刀二刀流だ!

 まず最初に閃いた右手の一閃が、敵の構える戦棍を大きく跳ね上げる。そこへ間髪入れずに左手も閃いて、がら空きになった敵の胴を薙いだ。

 これが現実だったら敵は真っ二つに斬り分けられていただろうと思える、見事な一撃だった。けれどもこれは、あくまでゲームだ。胴を薙がれた敵が血を噴いたりすることもなく、ただ頭上に緑色の横棒ゲージとして表示されていた生命力ヒットポイントゲージが半分の長さにまで急減して、黄色に変わる。いまの一撃で生命力が半分未満に減ったということだ。

「……!」

 戦棍の使い手は素早く後退する。下がるのが一呼吸でも遅かったら、きっと剣聖の繰り出した三閃目が彼にとどめを刺していただろう。

 一方、戦棍の男とは反対側の死角から斬り込んでいたシュバの戦士は、大盾を構えるアーク戦士の腕に細剣の刃を抉り込ませていた。大盾戦士の生命力ゲージが一割ほど減ったけれど、それ以上の追撃はない。細剣の使い手が素早く飛び退いた直後の地面を、後方から射掛けられた鉄の矢が穿つ。

「おおっ!!」

 いま片腕を刺されたばかりの戦士が吠えて、手首の捻りを利かせた大盾での殴打バッシュで、正面の立つ敵が扱き出してきた槍の穂先を弾き返す。

 前衛同士の交錯が終わり、再び距離が開く。両チームとも、すぐさま体勢を立て直したのだけど、すぐさま二度目の激突とはならない。前衛同士がぶつかっていた間に、それぞれの後方で詠唱されていた魔術が完成したからだ。

 アークの魔術師二人と、シュバの魔術師二人の魔術がほぼ同時に完成、発動する。合計四種の魔術は全て、味方を強化するための補助魔術だ。両チームの前衛たちが色とりどりの淡い輝きに包まれる。

 両チームが奇しくも同じ戦術を採って、魔術を攻撃ではなく味方の強化に使ったのは、今回の試合が同士討ち解禁フレンドリ・ファイア設定だからだろう。背後から広範囲を巻き込むような大魔術がぽんぽん飛んできたら、前衛はおちおち前を向いて戦っていられない。同士討ちと、それを気にしすぎるあまり動きが悪くなるのを避けるため、後衛は補助に専念する――という戦法に落ち着くのは自然な流れだった。

 アークもシュバも基本戦術は同じく、補助魔法で強化した前衛を突貫させる、だったけれど、違いは前衛の数だ。アークが前衛二名なのに対して、シュバは前衛三名。普通に考えて、シュバ側のほうが有利なように思える。けれども実際には、二名しかいないアーク側のほうが有利に戦いを進めていた。剣聖と呼ばれる二刀流の戦士が、一人で二人分以上の働きをしていたからだ。

 アーク側もう一人の前衛であるドワーフ戦士の構える大盾の弱点は、物理防御力を無視して浸透してくる系統の攻撃魔術と、盾の効果範囲を躱して死角から攻めてくる細剣のような武器だ。その逆に、遠間からの突きが主体になる槍や、正面から力任せに叩きつける戦棍のような武器は防ぎやすく、相性が良い。だからおそらく、シュバの前衛たちとしては、細剣の使い手を大盾のドワーフにぶつけたいと思っているはずだ。でも、剣聖がそれをさせていなかった。

 巧みな足捌きと、息もつかせぬ連続攻撃で細剣の使い手を防戦一方に追い込み、その上でさらに槍使いと戦棍使いにも攻撃を飛ばして、彼らに攻撃のリズムを作らせない。

 試合はまさに剣聖の独壇場だった。残る九名は、彼という主役をより強く輝かせるための引き立て役でしかなかった。

 勝負を決めたのは、アーク側の後衛三名のうち唯一の弓使いだったけれど、それも同士討ちの恐れがない絶好の位置に敵を追い込んだ剣聖の働きがあってのものだった。

 細剣の使い手を圧倒していた剣聖が、フェイントをかけるサッカー戦士のようなものすごい動きで急速方向転換して、槍使いと二人がかりで大盾のドワーフを攻め落とそうとしていた戦棍使いを横手から急襲する。細剣使いは、自分に背を向けた剣聖に向かって躍りかかったが、そこをアーク後衛の弓師に狙い撃たれたのだ。

 前衛が一枚落ちて、三対二でどうにか均衡していた前衛の戦力が崩れた時点で、試合一本目の大勢は決した。残っていた槍使いが落ちると、後衛に位置取っていた魔術士二名を射程に捉えるところまでアークの弓師が上がってきて……後はもう一方的だった。シュバ側は一矢報いることもできず、三本勝負の初戦を落としたのだった。

 観客席から上がった歓声と罵声の比率は、おそらく七対三くらい。アークの勝利に賭けている人のほうが多いのだろう。声援が少ないなかで初戦を落としたシュバ側に流れを引き戻すことができるのか――。

 わたしとしては、もうすでに金銭的な面では試合が始まった時点で終了しているけれど、どうせなら本番も大盛り上がりの大成功で終わって欲しいから、シュバ側の五名にも頑張りを期待したいところだった。

「二戦目はシュバが取って、最後の三戦目まで勝敗が縺れ込む……っていうのが理想だよね」

「うん……!」

 わたしの呟きに、相方ちゃんも隣でこくこく頷いた。

 十五分間の休憩を挟んだ後、再び重々しい鐘の音が鳴り響いて、第二試合がもうすぐ始まることを告げる。

 ルール上、一試合ごとに戦士を入れ替えるのは自由としていたけれど、アーク側は一試合目と同じ五名が出てきた。対して、シュバ側は戦士を入れ替えてきた。細剣使いに代わって、獣耳が特徴的なコボルト女性の戦鎌サイズの使い手を入れてきたのだ。

 身長と同じくらいの長い柄と、それに見合った三日月の大きな刃。身につけている防護も、黒く染められた裾が膝を隠すほど長いジャケット――フロックコートのような布装備だ。

「うわぁ、戦鎌だよ」

 相方ちゃんが感嘆の声を漏らす。

「どんな武器なの?」

 鎌という武器を、わたしはいままで見たことがなかった。

「あたしも実際に使っている人を見るのは初めてだけど、幸運系武器のひとつよ」

「幸運系……っていうと、ラックが高いほど威力ダメージが上がるの?」

「そうそう。だから、かなぁり専門的っていうか趣味的な武器なわけよ」

「なるほどね」

 相方ちゃんの説明に、今度はわたしが頷いた。

 武器は大きく、筋力や体力などの能力値ごとに大別されていて、その武器を使いこなすには対応している能力値を――正確には能力値増強技能を、上げていく必要がある。しかし幸運という能力値は、多くの判定にごく僅かずつ関わるという、六種の能力値のなかでもっとも微妙なものである。その他の能力は特化させるだけの価値があるけれど、幸運に特化したキャラを作っても大した活躍ができないのだ。

 幸運特化キャラはあらゆる判定に対して確率で成功するようになるけれど、その成功率はどれだけ頑張っても信頼できるほど上がるものではない。要するに、幸運特化キャラは不安定なのだ。

 確率依存なので、同じく幸運の高い相手以外には、総合的な戦力差に関わらず一定確率で勝負できるという強みがあると言えるけれど、それは裏を返せば、勝つか負けるかが運任せになってしまうということだ。他の能力を特化させた場合に比べて、信頼性が一回り以上下がってしまうのだ。

 そんな幸運系武器サイズを手にする戦士をシュバ側が出してきたということは……。

「ねえ、お姉さん。シュバの人たちは、もうまともにやっても勝てないと思って、趣味ネタ武器に走ったってことなのかな。どう思う?」

 相方ちゃんの言葉は、わたしの気持ちをそのまま代弁するものだった。

「うん、そうなのかも……あっ、でももししかして、あの戦鎌がそんなに幸運が高くなくても装備できるもので、じつは他の能力特化キャラでした――ということもあるんじゃない?」

 言ってみて、なかなか良い思いつきだと思った。

 違う能力系の武器を持っておいて、自分の能力を誤認させておき、いざ戦闘が始まったら本命の武器に持ち替えるのだ。ちょっとしたことだけど、立ち上がりの数秒間だけでも相手を動揺させられたら儲けものの戦法ではないか!

「……それ、あんまり効果ないっていうか、逆効果だと思うよ」

 相方ちゃんに苦笑いで言われてしまった。

「えぇ、なんでさ?」

「装備の変更って、操作盤を呼び出して、それから荷物欄か装備欄を呼び出して……って、どう頑張っても数秒はかかるでしょ」

「それもそうか……」

 言われてみれば、その通りだ。

 相手を数秒、動揺させるために、数秒かけて武器を持ち替える。それでは本末転倒だ。しかも、相手が動揺しなかった、自分だけが一方的に損することになる。

「それに騙すつもりだったら、戦鎌なんてキワモノじゃなくって、もっと普通にありそうな系統の武器を持つんじゃないかなぁ?」

 相方ちゃんが続けた言葉に、わたしはぐうの音も出なかった。

「仰るとおりでござまいます……って、じゃあ、あの黒いコートの人は、本当に戦鎌を使って戦うということ?」

「……そうなるのかな?」

 わたしと相方ちゃんは顔を見合わせ、二人して小首を傾げた。

 第二試合の始まりを告げる鐘が、ごぉん、と重々しい音を響かせる。そのなかで、十名の戦士たちが激突した。

 シュバ側の新戦士である黒衣の女コボルトは、長柄の鎌を片手にだらりと提げたまま、滑るような足取りでアーク側の前衛――剣聖のほうに近づいていく。なんとシュバ側は、剣聖と一対一マッチアップさせるつもりで趣味武器サイズの使い手を投入してきたのだ!

 黒衣の鎌使いが振るった掬い上げるような一撃が、剣聖が交差させた二本の湾刀に絡め取られる――いや、取られない!

 鎌を握る黒衣の腕が明らかに不自な速度で跳ねて、本来なら湾刀に止められるはずだった鎌の軌道がまったく別の軌道へと変わり、剣聖の無防備な胴を真横から薙いだ。

 痛打クリティカルが発動したのだ。

 その瞬間、ゲームシステムによる絶対的な介入が行われて、通常ではどれだけ能力を上げても実現不可能な行動が自動的に行われ、攻撃を絶対成功させたのだ。

 発動すれば強力な痛打だが、その発生率は当然、低い。幸運の能力値を上げれば痛打の発生率を上げることができるけれど、それだけでは精々、発生率一パーセントが十パーセントになる程度だ。

 幸運系に分類される武器のなかでも、連接棍フレイルには痛打発生率を上昇させるという特性があるけれど、戦鎌の特性は痛打のダメージを上昇させる、だったはずだ。

 ということは、いまの痛打は確率一割未満の“当たり”を引いただけ、ということ?

 観客の大多数もわたしと同じように思っているのか、開幕すぐの痛打に対する歓声は少なく、より大きな困惑の響めきに呑まれていた。

「いまの、偶然かな? 狙ったのかな?」

 相方ちゃんの問いかけに、わたしは答えられない。わたしだって聞きたかったのだから。

 その答えは、試合場の上で示された。

 黒衣の鎌使いが繰り出す攻撃は、まるで不規則な軌道を描いて剣聖の剣をかいくぐり、彼の身体を切り刻んでいく。それは、鎌使いが立て続けに痛打を発生させていることを物語っていた。

 おおぉ、と観客席が響めく。だけど今度のは、困惑と同じくらいの賞賛が籠もった響めきだ。

 痛打の発生率を上げる特徴のない戦鎌で連続して痛打を出しているということは、能力を幸運に特化させているのはもちろんのこと、武器以外の装備を痛打発生に特化したもので身を固めているということだ。

 痛打の発生率を高める付加効果は、一つや二つあったところで意味がない。発生率十パーセントが二十パーセントになったところで大差ないからだ。

 安定して痛打を量産するには、発生率七十パーセントは必要だと言われている。そのレベルの発生率は、全身を特化装備でがちがちに固めて初めて確保できる。

 要するに痛打特化の戦闘スタイルというのは、お財布に優しくない戦法なのだ。

 だからして、痛打特化の戦闘スタイル、しかも連接棍ではなく戦鎌というのは非常に珍しいのだ。わたしもそうだけど、おそらく観客のほとんども戦鎌使いの戦いを見るのが初めて、という人が多いのだと思う。観客席から興った歓声は、たぶんそういうことなのだろう。

「あたし、鎌を使うって人って初めて見たけど……あんなに強かったんだ……」

 相方ちゃんの口から漏れる驚きと賞賛の声は、観客席から聞こえる波打つような歓声を代弁するものだった。

 第二試合が始まるまではアークを応援する歓声で満ちていた観客席が、いまはシュバを応援する雰囲気に変わりかけている。観客席から吹き始めた追い風に乗って、鎌使いの攻撃もどんどんリズムに乗ってくる。

 剣聖の戦闘スタイルは基本的に、わたしと同じだ。能力を敏捷に特化させ、湾刀二刀流の攻撃速度を活かして一気呵成に畳みかけるというものだ。敏捷の高はそのまま回避力の高さにも繋がるから、相手の攻撃も食らいにくいし、食らったときに発生するよろめき硬直ノックバックで攻撃の手が止まることも少ない。

 一試合目を見るかぎり、剣聖の攻撃速度と回避力はわたしなんかと比べものにならないくらい高い。器用系武器の細剣ですら、まともに命中させられなかったほどだ。

 それがいまは、発生すれば相手の回避を無視して必中する痛打を立て続けに浴びせられて、まったく良いところなしだった。連続するノックバックのせいで攻撃をやり返すことも儘ならないし、たまに繰り出した反撃も、幸運に由来する奇跡的回避ジャストラックが頻繁に発生して、命中率や回避率を無視した自動失敗になる。

 攻撃のリズムを完全に崩された剣聖は、剣聖の異名が形無しになるほど一方的にやり込められていった。生命力ゲージの色が、それでも黄色と赤色を行ったり来たりするところで踏み止まっていられたのは、後衛の魔術師二名が必死に補助と回復の魔術を飛ばしていたからだ。

 けれども、後衛の戦力リソースが剣聖に集まった代償として、二対一の戦いを強いられた大盾のドワーフが瀕死に追い込まれてしまう。その時点でアーク三人目の後衛である弓師は、シュバの後衛を落として状況を好転させる賭に出るが、その動きは読まれていた。戦棍使いと一緒になって大盾のドワーフを攻めていた槍使いが素早く飛び出して、前に出てきた弓師を串刺しにしてしまった。

 近接武器のなかでもっとも有効距離の長いという槍の特徴を活かした迅速な対応に、回避力と防御力を犠牲にして高い攻撃力を確保している弓師が耐えられるはずもなかった。

 無理してシュバ後衛を射撃しようとした弓師が、まず槍の餌食になって倒れた。槍使いはそのまま前進して、アークの魔術師二人を襲う。詠唱中はまともに回避行動を取れない魔術師にとって、武器が届く距離まで詰められた時点で、もはや負けたも同然だった。

 すでに生命力ゲージを黄色くしていた大盾のドワーフが、後衛からの支援が途絶えてしまったところをシュバの戦棍使いに押し切られて、倒れる。

 アークの魔術師たちは、片方が捨て駒になることでもう片方が攻撃魔術の詠唱を完了させて、槍使いを撃ち倒す。しかし、善戦もそこまでだった。迫ってきた戦棍使いに、魔術師一人では為す術がなかった。

 黒衣の鎌使いに封殺されながらも踏ん張っていた剣聖だったが、四対一になってしまっては、さすがにどうすることもできなかった。

 二試合目はシュバ側の圧勝だった。

 二度目の休憩時間中も、観客席のざわめきは消えないでいる。

「すごかったね、いまの試合」

 わたしに話しかけてくる相方ちゃんも、観客席の興奮に負けず劣らず、顔を紅潮させている。

 ……いや、わたしの顔だってきっと同じくらい赤くなってる。

「うん、すごかったね。あの剣聖の人、一試合目はすごい強かったのに、いまの試合じゃ良いところ全然なかった……戦闘スタイルの相性って、こんなに大事だったんだね」

「相性って言っちゃえばそれまでだけどさぁ、」

 相方ちゃんは人差し指をすっと立てて、真面目な口振りで言う。

「あの黒尽くめのコボルトさん、痛打じゃない普通の攻撃をほとんどしてなかったわ。全部数えていたわけじゃないけど、八割は痛打にしていたと思う」

「え……それって、五回攻撃したら四回は自動的に絶対成功するということ? それ、強すぎない? ゲームバランス的に良いの?」

「普通はそこまで痛打の発生率を上げられないよ。あたしもちょっと計算してみたことあるけれど、お金に糸目をつけないで特化装備を買いまくったとしても、発生率六十パーから七十パー未満が限界だったよ」

「……でも、あの黒い人、八十パーは出していたんでしょ?」

「だからすごいの! 他に何にもできないレベルで幸運に超絶特化して、その上で痛打発生に超絶希少ウルトラレア級の付加効果ボーナスが付いた装備で全身がちがちにするレベルじゃないと達成できない数字なの。でもそれって、お金に換算したらどれくらいになると思う?」

「さあ……いくらになるの?」

「分かんない」

 相方ちゃんの即答に、わたしは座ったまま肩でずっこけた。

「ちょ……ここまで引っ張っておいて、分かんないって何よ!」

「だって、そんな激々レアな幸運装備なんて市場に出てこないから、相場がないんだもん。時価ってことだよ、時価。けどぉ……少なく見積もっても百万単位でギアが吹っ飛ぶお値段になるんじゃないの?」

「おおぅ……」

 わたしには呻き声しか出せなかった。

 現実のお金と相互に交換できる通貨ギアで百万単位ということは、概ねそのまま現金で百万円単位ということだ。世の中的にどうなのかは知らないけれど、わたし的には信じられないほどの大金だ。

 もしかしたら、買ったのではなく【生産】技能で自作したか、遺跡で手に入れたのかもしれないけれど、わたしがそんな超高額アイテムを手に入れたとしたら、自分で使うことを考える前に間違いなく売っている。銀貨のみ受け付ける設定にして売って、現金に兌換している。あ、半分は銀貨のまま残して、ゲーム内で装備を調える資金にしても良いだろう。

「しかもだよ!」

 空しい皮算用はしていたわたしの耳を、相方ちゃんのさらなる鋭い言葉が打つ。

「痛打頼みの戦い方って、発生率七十パーは確保してないと安定しないわけよ。攻撃力とか回避力とかの能力は上がった分だけ確実に効果が出るけれど、痛打は結局、発生するかしないかの二択でしかないからね。ええと……閾値を超えるまでは上がった分が反映されない、っていう言い方で意味あってるのかな?」

 相方ちゃんは自分の言葉に小首を傾げている。でも、言わんとするところは伝わった。

 痛打に依存した戦闘スタイルは大器晩成なのだ。

 あの黒衣の鎌使いは、なかなか使い物にならないにジレンマに負けることなく多大な金と時間と手間を注ぎ込んで、ようやく完成したものなのだ。

「……わたしたちみたいな、どうやってお金儲けしようか悩んでいるようなレベルが真似しようとしても、途中で挫折するのが落ちなんだろうね」

「そりゃそーでしょ。あたしらで実現できる程度だったら、お客さんがこんなに沸いたりしてないってば」

 あっけらかんと笑う相方ちゃんに、わたしも、

「それもそっか」

 苦笑いを返すばかりだった。

 ごぉんごぉん、と休憩時間の終わりを告げる鐘が重々しく鳴り響く。

 観客席のざわめきが一瞬ぴたりと止み、直後、大音声の歓声が沸き起こった。風圧を感じそうなほどの歓声に押されるようにして、両チームの戦士十名が試合場の中央に歩いていく。

 今度は、シュバ側の五名は二試合目と同じで、アーク側が選手交代してきた。いまいち機能していなかった弓師を下げて、両手持ちの大剣を背負ったトロール男性の戦士を入れてきた。さらに、大盾を構えるドワーフが、これまでの二試合で使っていた飾り気のない無骨な戦鎚ハンマーを、赤黒くて刺々しい“呪われた装備”のような戦鎚へと持ち替えていた。

「弓を両手剣に替えたっていうのは分かるけれど、戦鎚を別のに換えたのはどういう意味だろ?」

 独り言か質問か、相方ちゃんが対峙する戦士たちを見ながら言う。

「分からないけれど……あの戦鎚、見るからに禍々しいよね」

 わたしも試合場を見ながら答えた。

「呪いの装備って感じ?」

「あ、それ。わたしも思ってた」

「そう見えるよね、やっぱし」

 なんて意気投合して、二人で微笑。

 どこにも存在していない鐘が、歓声に負けない音でひとつ大きく鳴り響く。それを合図に、いや、それと同時に十名の戦士が動いた。近接武器を構えた前衛は地を蹴って飛び出し、杖や魔導書を抱えた魔術師たちは一斉に詠唱を開始する。

 三本勝負の最終戦は一見、前の二試合と変わらない立ち上がりを見せていた。けれど、相対した戦士同士の顔ぶれは大分変わっている。

 まず、それまでは大盾の防御力を活かしてシュバの前衛三名のうち二名をまとめて相手取っていた大盾のドワーフが、血の色をした刺々の戦鎚を振りかぶって、黒衣の鎌使いへと突進した。

 観客席も響めいたけれど、シュバ側にとっても想定外のことだったようで、対応が僅かに遅れた。

 その隙に、大盾のドワーフもとい戦鎚のドワーフはけして早くない脚で距離を詰め切り、黒衣の鎌使いとのがっぷり四つマッチアップに入ってしまった。

 黒衣の鎌使いは、シュバ側の剣聖に対する切り札だ。アーク側はその切り札を早々に別の手札で封じてきたわけだ。だけど、シュバの戦士たちも、それを黙って見ていたりはしない。戦棍使いと槍使いがすぐさま割って入って、ドワーフを鎌使いから引き剥がそうとする。けれども、アーク側の戦士たちだって、それを黙って見ているわけがなかった。

 剣聖が槍使いに、大剣を担いだトロールが戦棍使いにそれぞれぶつかっていき、一対一の体勢に持ち込んだ。

 剣聖の流れるような連続攻撃が、後退して遠間を保ちつつ戦おうとする槍使いの槍を打、弾き、絡め取る。トロールの戦士が全身を使って振りまわす大剣は、戦棍使いに余所見を許させない。

 前衛同士の激突に遅れて、両チームの魔術師が補助魔術を完成させる。杖や魔導書から飛んだ魔術の光が味方の前衛を包み込むと、観客席からどよどよと驚きの声が上がった。

 補助魔術の効果は、光の色で何となく判別がつく。防御力向上なら緑、回避力向上なら青といった具合だ。

 観客席が響めいたのは、どす黒い血の色をした戦鎚のドワーフを包んだ光が、黒だったからだ。

「えっ……黒って何?」

 わたしに呟きに答えるように、相方ちゃんが驚きの声を漏らす。

「うわぉ、いきなり捨て身戦法って……!」

「捨て身?」

「あ、うん。黒い光の補助魔法は、防御性能を下げる代わりに攻撃性能を大きく上げるっていう系統なの」

「なるほど、捨て身ね……」

 相方ちゃんの説明に、観客席がどうして反応したのかは納得できた。でも、どうしてアーク側がそんな戦術を採ったのかは理解しかねた。

 黒い補助魔術を受けたドワーフの戦士が対決するのは、剣聖を完封した黒衣の鎌使いだ。シュバの戦士五名のなかで一番強い相手と言い切っていいだろう。そんなのを相手にする味方に向かって捨て身の戦法を採らせるというのは……いや、そんな強敵を相手にするからこそ、一か八かの戦法を採らせざるを得なかったということなのかも。

 どっちにしろ、まともな戦術とは言えない。

「……まともな戦術で勝ち目があるなら、捨て身戦法なんて選ばないか」

 わたしが皮肉めかして微苦笑しているうちにも、試合場の戦士たちは激しい剣戟を響かせる。

 剣聖の振るう二振りの湾刀は、二試合目ではまったく良いところがなかった鬱憤を晴らすかのような苛烈さで、シュバの槍使いを圧倒していた。槍使いも射程の差を活かそうと必死に脚を使っているのだけど、剣聖の間合いから逃れられないでいる。

 最終戦で初めて投入されたアークの大剣使いとシュバの戦棍使いとの戦いは、互いの意地と意地をぶつけ合う打撃戦になっていた。

 筋力系に属する高攻撃力が特徴の大剣は、余計な小細工なしで攻撃するしか能がない。体力系に属していて生命力増加の特徴がある戦棍での戦い方は、肉を切らせて骨を断つ、だ。

 アーク戦士の大剣が、シュバ戦士をぶった切る。直後、行動後の硬直サスペンドが発生している大剣使いの頭を、シュバ戦士の戦棍がぶっ叩く。一撃の威力は大剣のほうが高いけれど、体力の高い戦棍使いのほうが仰け反りノックバック時間が短くて済むため、手数で勝る。そして両者に共通しているのは、回避を捨てているということだった。

 禍々しい戦鎚と大盾で武装したドワーフの戦士と黒衣の鎌使いとの対決もまた、ある意味で回避を捨てた戦闘になっていた。もともと、痛打と奇跡的回避を当てにした幸運特化の戦法である鎌使いは、ろくな回避行動を取らない。戦鎌はそこそこ攻撃範囲の広い武器なのに、その間合いを活かそうともせず、ただひたすらに振りまわすばかりだ。そんな未熟な戦い方でも、ただ痛打の発生率が八割というだけで、剣聖を圧倒したほど強いのだ。

 続けざまに打ち込まれる戦鎌の刃は、ドワーフの構える大盾を横から躱して、次々と命中する。ドワーフは攻撃を食らった衝撃で、避けようとすることも儘ならないでいる――まるで二試合目の、剣聖との対決をそのままなぞっているような展開だった。

「でも、何だろう……何かちょっと違うような……」

 相方ちゃんが訝しんでいる。

「うん……」

 わたしも同感だった。

 二試合目の、剣聖と戦っていたときと同じ展開のように見えるのだけど、違和感を覚えるのだ。どこかが、二試合目のときとは違っている。でも、どこが?

「……あっ、そうか!」

 まじまじ凝視していたら、わりとあっさり気がつけた。

 剣聖と戦ったときと、いまドワーフと戦っているときとでは、戦鎌の描く軌跡が違うのだ。対剣聖のときは、剣聖が湾刀で防御しようとするのを捻くれた軌跡を描いていたのが、いまの戦いでは普通のまっすぐな軌跡しか描いていないのだ。その事実が意味するところは……。

「あ、そか。あのドワーフの人、まったく避けようとしてないんだ!」

 相方ちゃんが両手をぱんっと合わせて、わたしがいまちょうど言うとしたことを一足早く言われてしまった。しかも、相方ちゃんはさらに深い考察を披瀝してくる。

「そっかぁ、どうせシステム的に必中されちゃうんだったら、最初から避けたり受けたりしなくても同じなんだもんね……あっ、でもそれだと、ダメージを受けたときに怯んじゃうから駄目よね……って、あれ? あのドワーフさん、怯んでない? どうして……あっ、そか。さっきの補助魔術だ。あれは回避力をゼロにする代わりに、怯み無視スーパーアーマー状態にする奴だったのね。そっか、そっかぁ」

 わたしに説明するというより、自分で自分に話しかけているような調子で言って、相方ちゃんは頻りに頷いている。

 スーパーアーマーという単語は初耳だったけれど、攻撃を食らってもノックバックしなくなるということだろう、たぶん。

 相方ちゃんの話を踏まえた上で、改めて鎌使いとドワーフの戦いを見てみると、確かにドワーフは鎌をいくら食らっても動きが不自然に止まったりしていない。棘の生えた赤黒い戦鎚を振りかぶっている最中に痛打を食らっても、まったく怯むことなく戦鎚を鎌使いに向かって叩きつける。

 剣聖は痛打を食らっては、その度に発生する怯みで攻撃動作を崩されまくったけれど、その反省を見事に活かしたわけだ。

 だけど、それだけではなかった。わたしはさらに、反省が活かされている点を発見した。それは――

「あっ! ねえねっ、お姉さん! あの戦鎌の人、さっきから一度も超回避ジャストラックが発生してないよね?」

 またしても、相方ちゃんに先回りで言われてしまった。

「う、うん……」

「やっぱり、あたしの見間違いじゃなかったんだ……っていうことは、きっとあの戦鎚だ! あからさまにヤバげな追加効果ありそうな見た目だけど、相手の超回避を封じる効果が付いてたんだよ!」

 思わず、なんだってーっ、と答えたくなるような断定口調の相方ちゃん。わたしはそんな彼女から試合場へと目を戻す。

 実際、相方ちゃんの言ったとおりなのだろう。だとすれば、同じ武器種のものに持ち替えたことの意味も通るし。

 黒い光の支援魔術を受けたドワーフは、その身体を縦横に斬りつける戦鎌を意に介することなく、どす黒い血の色をした戦鎚を相手に叩きつけていく。剣聖との戦いでは高確率で発生していた黒衣の鎌使いの超人的な回避行動も、ドワーフとの戦いではやはりまったく発生していない。

 鎌使いの持ち味だった、痛打による必中攻撃と、そのダメージによる硬直で相手に何もさせず押し切るという戦法を、ドワーフの戦士は硬直無効スーパーアーマーの補助魔法と、超回避無効ハードラックの付加効果が付いた武器で、見事に攻略していた。ただし、連発される痛打を躱しているわけではない。戦鎚使いとしての体力の高さ、生命力の高さに任せた消耗戦を挑んでいるだけだ。

 アークの大剣使いとシュバの戦棍使いも互いに回避を捨てた打撃戦を繰り広げていて、両チームの魔術師二名はどちらも、この二組に支援と回復の魔術を集中せざるを得なかった。

 そうした状況のなか、後方からの回復が途切れたシュバの槍使いが、ここぞとばかりにこれまで以上の苛烈さで斬り込んできた剣聖に倒された。槍使いの生命力ゲージはまだ黄色になったばかりだったのに、剣聖の動きが二倍速になったと思うや、あれよと言う間もなく、彼の生命力は赤くなるのを通り越して、無くなったのだった。

「すごい……」

 同じ湾刀使いとして、わたしには溜息しか出させなかった。

 剣聖はまず間違いなく、シュバ側の魔術師二人がどちらも自分たちのことから意識から外した瞬間を狙って、それまで抑えていた本気の攻撃速度で攻めきったのだ。

 最後の数秒間に見せた洪水のような連続斬りも圧巻だったけれど、そこに至るまでがもっとすごかった。剣聖には、対峙している相手以外の戦況までもがはっきりと見えているのだ。

 思い返してみれば、一試合目のときもシュバ前衛三人の動きを一人で支配していた。二試合目のときに良いところがなかったのも、敢えて全力を出さなかったのだろう。あの時点で手の内を晒して冒険するより、二試合目を落としたとしても、三試合目で必ず勝つために手を伏せたまま負けたのだ。

 剣聖が剣聖と呼ばれる所以は、ただ熟練度が高いとか、気配を感じられると言い切るほどの戦闘センスがあるからだけではない。眼前の敵を相手にしつつも常に周囲へと向けられている広い視野と、最終的な勝ち筋を考えて立ち回れる先見性――それが剣聖を剣聖たらしめているのだ。

 わたしも頑張ったら、あのくらい強く、強かになれるのだろうか……。

 憧れと、ひとつまみの敵愾心とが、わたしの胸をちりちりと焼く。

「あっ」

 相方ちゃんが、はっと息を飲む。観客席が、おぉ、と響めく。

 剣聖は槍使いを倒したと同時に駆けて、後方から支援を飛ばしていた魔術師を湾刀の間合いに捉えたのだ。

 シュバの魔術師たちはまだ、槍使いが倒されたことに気づいて仰天していたところだ。気持ちを切り替えて次の行動へと移る直前の、一瞬の思考の空白。剣聖が閃かせた左右の残撃は、その空白を容赦なく切り裂いた。

「ぎゃ!」

 短い断末魔を残して、一人が生命力ゲージを緑から一気にゼロにされた。もう一人の魔術師はすぐに飛び退ろうとしたけれど、剣聖の間合いから逃れることはできなかった。

 槍使いの生命力ゲージを半分からゼロにまで削りきった嵐のような連続斬りに、接近戦に適した装備も技能も備えていない魔術師ロールの相手が抵抗できようはずもなかった。

 シュバの魔術師二名は一矢報いることもできず、瞬殺された。

 観客席がさらに沸いた。一部で上がっている悲鳴と悲痛な声援は、シュバの勝ちに賭けていた連中だろう。その声が背中を押したのか、状況がさらに動いた。

 アークの魔術師は二人で分担して、この試合から投入された大剣使いとドワーフの戦鎚使いを支援していたのだけど、大剣使いを支援していた方が剣聖へと回復魔術を飛ばしたのだ。剣聖の生命力ゲージは一割を切って赤くなる寸前だったから、まだ三割はゲージを残している大剣使いより早急に回復させなければいけない――咄嗟にそう判断したのだろう。

 それはけして悪い判断ではなかったと思うのだけど、アークの大剣使いと対決していたシュバの戦棍使いが、この絶妙なタイミングで痛打を発生させた。執念が引き寄せたその一撃は、跳ねるような軌跡を描いて大剣使いの側頭部をぶっ叩いた。

 通常とは違う軌道で叩き込まれたその一撃は、大剣使いのリズムを僅かに鈍らせた。そこへ戦棍の乱打が襲いかかり、魔術師が回復魔術ヒールの詠唱を完成させるより早く、大剣使いの生命力を削りきった。

 観客席からまた歓声。そのときにはもう、戦棍使いは独楽のように身を捻った勢いで地を蹴って、鎌使いと消耗戦を演じていたドワーフの戦鎚使いに横手から躍りかかった。

 腕を目一杯に伸ばして突くように打ち出された戦棍が、ドワーフに命中。その瞬間、鎌使いも弾かれたように身を捻って、剣聖に襲いかかる。

 鎌使いを抑えるはずだったドワーフが戦鎚使いに抑えられ、自由になった鎌使いが剣聖を討ち取りにいく――この土壇場にきての、惚れ惚れするような相手交換スイッチだった。

 観客席にも一瞬、大勢が息を飲んだ気配が走る。

 ――まさか起死回生の大逆転が起こるのか!?

 そんな声なき声が、わたしには聞こえた。いや、それはわたしの思考が発した声だったかもしれない。

 黒衣の女コボルトが振るった鎌は、剣聖の足下から腋の下へと切り上がる。剣聖はそれを避けようとせず、二振りの湾刀を相手に向かって繰り出す。痛打を避けられない以上、攻撃には攻撃で迎え撃つのみだ! でも、それでは二試合目と同じ轍を踏むだけだ。持ち前の回避力を活かせず、相手の奇跡的回避を打ち消す手立てもない。剣聖はまたも鎌の餌食になるのか? それとも何か秘策があるのか!?

 わたしたちが固唾を呑んで見守るなか、剣聖は真っ向から鎌使いと斬り合った。そこに策はなかった。ただ、二試合目よりもずっと速く鋭い斬撃を、右から左から上から下から縦横無尽に浴びせかけるだけだった。

 鎌使いの攻撃は痛打発生を示す残像エフェクトを発しながら、剣聖の無防備な身体を何度も切り裂く。だけど、剣聖の振るう二刀はその倍の速度と手数で、鎌使いを切り刻んだ。嵐か竜巻が吹きつけるかの如き高速連撃の前には、痛打による怯みも奇跡的回避による空振りも、斬りつけられる二刀の速度をコンマ数秒、鈍らせる程度にしかならなかった。

 苛烈な斬撃が鎌使いの生命力ゲージをがりがりと削り取っていき、そして最後の一ドットまで削りきった。剣聖は二試合目の借りを、真っ向勝負で返したのだった。

 ただし、鎌使いが剣聖に斬りかかった時点で既に、アークには後衛がいなくなっていた。片一方だけが後衛からの支援と回復を受けつつの消耗戦では、端から鎌使いに勝ち目はなかったとも言える。結局、後衛の魔術師二人が落ちた時点で――さらに言うなら、鎌使いへの対抗策を用意されたときの対策を用意していなかった時点で、三試合目の勝敗は決まっていたとも言えよう。

 まあ、いまさら勝因や敗因を論じたところで結果論だ。

 厳然たる事実としてあるのはただ、三試合目をアークが勝ち取って、総合二勝一敗でこの決闘の勝者になったということだった。



「それじゃあ、決闘ビジネスの大成功を祝して……かんぱぁい!」

 酒場の個室に、相方ちゃんの朗らかな声が響く。

「乾杯」

 わたしも酒杯を持ち上げて、相方ちゃんの酒杯にごっつんと力強くぶつけた。どちらの酒杯もガラスの大ジョッキだったけれど、仮想現実のなかでは基本的に皿や杯が割れたりしない。ついでに言うなら、料理やお酒を床に落としてしまっても、酒や料理が零れたり、汚れが付いたりすることもない。

 ゲーム内で飲み食いしていると、現実での食事マナーが悪くなる。だから、ゲーム内の食事も零したり落としたりしたら食べられなくなるようにプログラムを変更するべきだ!

 ――という署名を集めているプレイヤーがいるという話を聞いたことがあるけれど、本当なのかどうか。

 それはさておき……わたしと相方ちゃんはいま、個室のある酒場で祝杯を挙げていた。決闘が終わってから数時間後のことで、収益の分配も試合開始の前までに全て終わっていた。

 アークこと『九天を照らす神遣う方舟』と、シュバこと『夜を穿つ黒騎の神槍』の決闘は、興行的にも収益的にも大成功だった。わたしたちの所持金は今回の分配金で激増した。わたしに至っては、元の所持金の十倍以上になった。そのほとんどが銅貨なのは微妙に残念だけど、それでも予想を遙かに上回る大儲けだった。

「いやぁ……でも、こんだけ儲かるって分かってたら、前売り券くらいは銀貨オンリーで売ってても良かったかにゃあ」

 相方ちゃんは早くも微酔い顔で、ふにゃふにゃと笑っている。実際にアルコールを摂取したわけでもないのに器用なものだ。わたしもごくごくと酒杯を呷ってみたけれど、酔うという感覚にはならなかった。

 というか、わたしは現実でも酔ったことがない。そもそも、お酒を飲んだことがない。舐める程度は経験があるけれど、これでも一応、未成年だからして。

 昔々の大昔ならいざ知らず、今の世の中、未成年の飲酒喫煙は厳罰対象だ。もっとも、こうして仮想現実のなかで味や匂いを模しただけのものなら、いくらでも摂取し放題だから、わざわざ身体的、法律的な危険を冒してまで現実で摂取しようという物好きはいない……滅多にいない。毎年、数名の摘発者が出ているけれど。

「ふいぃ……甘いものも良いけど、お酒もさいこーっ」

 相方ちゃんは大袈裟なくらいに頬を赤らめて酔っているけれど、わたしはどうも酔いそうにない。この違いはたぶん、実際にお酒を飲んで酔った経験があるかないかの違いなのかも。

 とすると、相方ちゃんはお酒を飲んで酔っぱらったことがあるということで、二十歳以上ということで、わたしより年上ということで……。

「んぅ? あれぇ? お姉さん、どーしたのぉ? あたしのお顔、なんか付いてるぅ?」

「あ、ううん。何でもないの。さあさあ、食べよう食べよう」

 わたしは笑って誤魔化しながら、目の前に並んだご馳走に箸を伸ばした。

「うわぁい! 食べよーっ!」

 相方ちゃんもふにゃふにゃ笑って、大皿に盛ってある唐揚げや焼き鳥やパスタやすき焼きに次々と箸を伸ばして、小皿に取り分けることなく直接、口に運び始めた。

 締まりのない顔と舌足らずな口調で子供のように笑いながら、ぱくぱくと元気よく頬張る姿は、とても年上の女性には見えなかった。

「……あり? お姉さん、食べないの?」

 相方ちゃんが可愛らしく小首を傾げて、わたしを見つめる。その間も、口はもきゅもきゅと咀嚼を続けている。本当に器用なものだ。

「食べないわけ、ないでしょ。こんな高カロリーでお腹にたっぷり溜まりそうなもの、現実だったら夜食じゃなくても食べられそうにないものね」

 わたしは腕まくりすると、相方ちゃんに負けじと、肉をがつがつ平らげにかかった。

 仮想現実での食事は、満腹感を覚えることはあっても、実際に満腹になるわけではない。だから、その気になれば、いくらでも飲み食いできる。この大儲け祝いパーティの趣旨は、満腹感の向こう側を見に行こうツアーなのだった。

 握り拳よりも大きな唐揚げをキャベツで包んでタルタルソースをたっぷり盛りつけたものを、もぐもぐごっくんと嚥下したところで、わたしは相方ちゃんに話しかけた。

「ねえ、次はどこのチームが良いかとか、当てがあったりするの?」

「……んぅ?」

 相方ちゃんはきょとんと小首を傾げる。わたしと二人きりの個室で、しかも酔っているっぽいというのにそういう仕草が出てくるあたり、さすがだ。でも、箸は口と大皿とを絶え間なく往復し続けていて、箸で切れるほど柔らかい大トロみたいな霜降りステーキにフォアグラ、チーズを載っけたものをまとめて摘み上げては口に運び……を繰り返している。

 頬をぷっくり膨らませてもぐもぐ頬張っている姿はまあ、ある意味では可愛いと形容できなくもない、か。

 ――などということは、どうでもいい。

 わたしは、相方ちゃんがどうして首を傾げたのかを問い質した。

「んぅ、って……次もまた、他のチームに決闘してもらってお金を稼ぐつもりなんじゃないの?」

「しないよぉ」

 相方ちゃんはへにゃらっと笑って手を振った。さも、そんなの当然でしょ、と言わんばかりの口振りに、わたしは少しムッとした。

「でも、今回は大成功だったわけだし、次回は色々な点でもっと段取りよくやれると思うんだけど……」

 相方ちゃんが急にけらけら笑い出す。

「そりゃそーかもしんないけどぉ、二匹目の泥鰌を狙おうって人が、もうとっくに雨後の竹の子状態よぉ。そのなかには、あたしらより資本力バリバリの人らもいっぱいだろうし、いまから二匹目を狙いにいっても五番煎じ六番煎じになっちゃうのが関の山よぉ。それに……」

 相方ちゃんは、醤油で煮付けて背脂と白髪葱をたっぷり載せた背脂丼を、口のなかへ豪快に掻っ込んでから、ごっくんと喉を鳴らして続けた。

「んっ……それに、アーク対シュバっていう最高の対戦カードをやっちゃった後で、それ以上のものなんて用意できるわけなぁいしぃ」

 顔の下半分を思い切りもぐもぐ動かして食べながら言われるのには、小馬鹿にされているような気持ちになったけれど、言われた内容にはぐうの音も返せなかった。

 でも、このまま言い負かされるのも何だか癪で、わたしはとにかく言い返してみた。

「確かにそうかもしれないけど……せっかく美味しい商売を見つけたのに、もう諦めちゃうの?」

「うん、諦めちゃおー」

 右手を振り上げる可愛い仕草付きで、あっさり素早く即答だった。

「そんなあっさり……」

「あたしはあっさり薄味の女なのよー、うふふーっ」

 片手を頬に添えて科を作っている様は、どこからどう見ても酔っぱらいだ。即決即断なのは酔っているせいかとも思ったけれど、思い返してみれば、相方ちゃんは普段からこのくらい即決即断だ。気分酔いしているだけだし、頭はしっかり回っているようで。

「まー、そういうわけだからしてぇ……」

 相方ちゃんが、今度はマヨネーズと雲丹と唐墨を練った特濃ソースをぐっちょり塗したたこ焼きの天麩羅をひとつふたつみっつ、と口に放り込んでいきながら言った。

「一番大きな山で一山当てたし、この山脈を掘るのは終了。明日っからは違う方面の、まだ誰も掘ってない山を探しましょーっ!」

 食べながら喋り、喋りながら箸を握った拳でえいえいおーする相方ちゃん。

 わたしもつられて、

「おーっ」

 と、右手を軽く持ち上げたのだった。


 暴食の罪で地獄に堕ちそうな食道楽ツアーは、三時間あまりかけて酒場の全メニューを制覇したところで眠気と尿意に負けて終了した。

 仮想のお酒をがぶ飲みしても、酔った経験がなければ雰囲気に呑まれて酔うこともない。だけど、トイレに行った経験がないわけがなく、水分を大量摂取した気分ことで催してくる欲求からは、わたしも逃れられなかったといわけだ。

 宴会をお開きにして【ルインズエイジ】からログアウトし、もうギプスも松葉杖も外れている片足を少し引き摺りながらトイレに行った後は、蒸し暑い夜なのにも関わらず、驚くほどすぐに寝付けた。満腹感が良い具合に眠気を呼び込んでくれたようだった。

 ベッドで横になり、目を閉じてから眠りに落ちる僅かな時間を、たっぷり稼いだギアをどう使おうかと考えて過ごした。考えがまとまる前に意識は眠りへ溶けてしまったけれど、何だかとても楽しい買い物の夢を見た気がする。

 とても幸せな夜だった。

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