第9話 逆上がり作戦(反・反重力作戦1)

「いやぁ、それにしても、ものすごい力でしたね」

地が紅潮した顔で言う。

「ああ、素晴らしい牽引力だ」

天も何故だか嬉しそう。

「先頭に立って、グイグイ引っ張っていくタイプですね」

そういう地に、

「物理的にグイグイ引っ張ったってしょうがないでしょう!」

ツッコむ人。

「あれでこそリーダーにふさわしい」

そういう天にも、

「いや、リーダーは、あんたでしょうが!」

ツッコむ人。

「いいですか。あのご神体はキャラが立ちまくってますから、捕獲すると同時に、ある程度コントロールする方法を見つけないと、食われますよ」

軽く肩で息をしながら、人は、天と地に指を立てて言った。

「食われるって?」

天と地がほぼ同時に尋ねた。

「存在とか、色々です」

人がため息交じりに答えた。



「それで、次は、どんな作戦で行くんだ?」

天が尋ねた。

「はっ、名付けて『反・反重力作戦』です」

地が自信たっぷりに答えた。

「『反・反重力作戦』?」

内容よりも、ネーミングセンスの段階で、すでにダメダメな予感しかしない人であった。

「ご神体の形状と、その飛行の軌跡を観察した結果、それらは航空力学では到底説明できないことは、明白であります。では、どうやって飛んでいるのか? 私は、反重力に着目いたしました」

語りモードに入ろうとする地。

「で、その、反重力ってのは何だ?」

天が疑問を口にした。

「えっ? えっとぉ? ……重力に反する力ですよ」

突如、地が勢いを失った。

「で、要するに、どうするんだ?」

天が、面倒臭そうに核心だけ聞いてきた。

「つまりですね、反重力で重力に逆らって浮いてるんだから、裏返してしまえば落っこちるだろうという作戦です」

 これを聞いた瞬間、天と人は内心「えっ?」と思った。

「そんなんで、落ちるのか?」

しかし、一応、相手は教団の科学省。真っ向、疑念をぶつけるのは自信がなかった。

「それで、具体的には、どうやって裏返すんだ?」

「逆上がりです」



 近くの公園の鉄棒を使って、3人で逆上がり選手権をやった結果、人が鋼鉄の迷惑に挑むことになった。「ご神体観察日記」から割り出した待ち伏せポイントで身を潜めていると、今日も、鋼鉄の迷惑がふよふよと飛んできた。

 人は、タイミングを見計らい、いきなり物陰から飛び出すと、鋼鉄の迷惑に飛びつき、両腕と胸で抱え込んだ。さぁ、ここからだ。この体制から両足を振り上げて、逆上がりの要領で己が身体ごと鋼鉄の迷惑を裏返してしまおうという作戦なのだ。

 人は、思い切り地面を蹴って、逆上がりをしようとした。しかし、鋼鉄の迷惑はビクともしない。ならばもう1度と人が足を下ろすと、そこにはなぜか地面が無い。鋼鉄の迷惑が50cmばかり上昇したのだ。しかし、人には、それが50cmなのか5mなのか瞬時には分からない。結果、鋼鉄の迷惑に反射的にしがみついてしまった。

 鋼鉄の迷惑は、人がしっかりしがみついたのを確認すると、回転を開始し、あっという間に高速回転に達した。こうなってしまっては、人になすすべはない。おとなしく回っているしかない。

 そして、鋼鉄の迷惑は、人がすっかり目を回したころに回転を緩め、地面にそっと落とすと、またふよふよと飛んで行ったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る