第10話 悠太

 いつものように、特に用もなく翔太が颯太のところに来ていた。そこに、悠太がやって来た。3人は仲が良く、悠太も良く特に用もなく颯太のところにやって来た。だから、その日も、用は無いのだろうと、颯太も翔太も思っていた。

 ところが、悠太は、コタツのある部屋に入ると、いきなり正座して、

「今日、集まってもらったのは、他でもない」

と言った。

「いや、集まってないから。ここ、俺んち、だから」

と、颯太が言い、

「おまえが、勝手に、ここに来たんだろうが」

と、翔太が言った。

「はっはっはっ、上手いことを言うな」

と、悠太が芝居がかって言うのはスルーして、

「で、何か、用事があって来たって言いたいのか?」

と、颯太が言った。

「そうなんだ。実は、ゲームを作ったんで、テストプレイして欲しいんだ」

悠太は、芝居がかった調子に飽きたのか、普通に言った。

「へぇ、そりゃ凄い。お前、コンピュータのプログラミングとか、出来たっけ?」

翔太が感心しかけると。

「ゲームと聞いて、すぐにそっちの方だと決めつけるとは、頭が固いな」

悠太が大げさに肩をすくめて見せる。

「じゃあ、何なんだよ」

颯太が聞くと、

「カードゲームさ」

と悠太が胸を張る。

「カードゲームぅ? あの、遊戯王とか、バトルスピリッツとかみたいな?」

と、翔太が言うと、

「カードゲームと聞いて、すぐにそっちの方だと決めつけるとは……」

「それ、もう、いいよ」

悠太が言うのを、颯太が遮った。

「で、何作って来たんだ?」

翔太が聞くと、

「『カルタ』だよ」

と、悠太が答えた。

「……あのぅ、今、夏真っ盛りの7月下旬ですよねぇ?」

颯太が、額に手を当てながら尋ねる。

「That‘s right.」

余裕の悠太。

「カルタって、冬にやるもんじゃないの?」

翔太が、憐みの目で悠太を見た。

「あ、はぁ~ん。OK。君たちの言いたいことが、ようやく分かったよ」

悠太は、エセ外人ジェスチャーを、更にパワーアップして言った。

「でもね、考えてごらん。冬に売る物の商品開発を、冬に始めるおバカちゃんが、どこにいる? それじゃあ、商品が出来るころには、春になってしまうよ」

「あー、まー、言われてみれば……、って、ええっ? 売るの?」

颯太は心底驚いた。

「出版社に持ち込んで、商品化してもらうつもりだ」

と、悠太が言うのを聞いて、

「なんだ。『つもり』かよ」

と、翔太が言った。

「じゃあ、まぁ、やってみるか」

と、颯太。

「で、何てカルタなんだ?」

と、翔太。

「うむ、題して『大腸カルタ』」

悠太がそう言った瞬間、颯太と翔太が同時に左右から悠太の後頭部を叩いた。

「それ、ただ、そのタイトル付けたかっただけだろうがっ!」

翔太が責める。

「そんなことない。確かに、出発点はそこだけど、ちゃんと全部作ったから」

悠太が必死に弁明する。

「分かった。分かった。分かったから、とっととやろう」



 さて、取り札を並べ終わって、読み手が悠太に決まって、「さあ、始めるぞ!」というときになって、部屋の隅でじっとしていた鋼鉄の迷惑が飛んできた。当然、悠太は驚いた。

「な、なんだ? これ? 最新型のお掃除ロボットのロンバじゃなかったの?」

パニクる悠太をなだめて何とか事情を説明すると、順応は早かった。

「じゃあ、まぁ、気を取り直して行こうか」

悠太はそう言って、読み札を読み始めた。

「がんばって、100種類以上の腸内細菌」

「はーいっ」

颯太が素早く「か」の札を取った。そのとき、鋼鉄の迷惑のどこかが、きらりと光を反射したかのように見えた。

「十二指腸は本当に指12本並べた長さだよ」

「はいっ」

今度は、翔太が「し」の札の上に右手を置いたその瞬間、

「ザクッ」

と、人差し指と薬指の間に、鋼鉄の迷惑の鋭い角が突き刺さった。

 2,3秒そのまま固まっていたのだが、翔太は我に返ると、右手を急いで引っ込めて、人差し指と薬指の無事を確かめた。

「なんだ、おまえもやりたいのか?」

と、颯太がいうと、

「呑気なこと言ってんじゃねーっ!」

と、翔太が興奮して言う。

「まったくだっ!」

と、悠太も激昂している。

「取り札に穴が開いたぞ」

と、悠太が言うもんだから、

「俺の手に穴が開くとこだったわっ!」

と、翔太が、更に興奮してしまう。

「とにかく、やっとられん。俺が、読み手やる。いいな」

翔太は、有無を言わせず、悠太と交代した。

「いいかー。いくぞー」

咳払いを1つして、

「長さは約150~160cmだよ」

と、翔太が読んだ。

 すると、鋼鉄の迷惑は取り札の上空で超高速回転を始めた。鋼鉄の迷惑の周りにつむじ風が生まれ、すべての取り札を舞い上げた。そして、それらのカードは四散し、颯太たちの全身にビシビシと当った。

「いや、『かるた』って、こういう遊びじゃないから……」

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