第8話 留守番電話

 その日、颯太は部屋にいなかった。鋼鉄の迷惑だけが、いつものように、コタツの天板中央に鎮座ましましていた。


 そのとき、部屋の隅の電話がけたたましくなった。

 鋼鉄の迷惑は、ついっと電話のところに飛んでいき、着地した。そして、何か見えない力で、受話器を持ち上げた。

「ぉーぅ、あーなたは、神を、信じ、ますか~?」

今時、まだ、そんな人がいるのか? というくらいコテコテの外人なまりの声が聞こえてきた。

「もし、もーし。もし、もーし。……聞いてらっしゃいますかぁ~?」

しばらくして、相手はあきらめて、電話を切った。

 鋼鉄の迷惑は、受話器を置くと、コタツの上へと戻って行った。


 しばらくして、また、部屋の隅の電話がけたたましくなった。

 鋼鉄の迷惑は、ついっと電話のところに飛んでいき、着地した。そして、何か見えない力で、受話器を持ち上げた。

「もしもし、ダイレクトメールを送ったのに、申込書を送ってこないって、どういうことですか?」

開口一番、何かいきなりキレている人だった。

「返信用封筒に切手まで貼って送ったのに、申し込まないってどういうことですか? うちは、天下の○○○ですよ。当然でしょう? もしもし、聞いてますか? もし、もーし。もし、もーし。……」

しばらくして、相手はあきらめて、電話を切った。

 鋼鉄の迷惑は、受話器を置くと、コタツの上へと戻って行った。


 しばらくして、また、部屋の隅の電話がけたたましくなった。

 鋼鉄の迷惑は、ついっと電話のところに飛んでいき、着地した。そして、何か見えない力で、受話器を持ち上げた。

「もしもし、3丁目の石井ですけど、おかめそばとけんちんうどん、大至急。とにかく早く持ってきて。よろしく」

相手は、それだけ早口に言うと、叩きつけるように電話を切った。

 鋼鉄の迷惑は、受話器を置くと、コタツの上へと戻って行った。


 しばらくして、また、部屋の隅の電話がけたたましくなった。

 鋼鉄の迷惑は、ついっと電話のところに飛んでいき、着地した。そして、何か見えない力で、受話器を持ち上げた。

「や、やばい。奴らが、やって来る。俺にかまうな。逃げろ。逃げてくれッ……ウッ」

鈍い、何かを思い切り叩く音がして電話は切れた。

 鋼鉄の迷惑は、受話器を置くと、コタツの上へと戻って行った。


 しばらくして、また、部屋の隅の電話がけたたましくなった。

 鋼鉄の迷惑は、ついっと電話のところに飛んでいき、着地した。そして、何か見えない力で、受話器を持ち上げた。

「はぁはぁはぁ、ねぇねぇ、今、どんな格好してるの? はぁはぁはぁ、ねぇねぇ、今、どんな下着つけてるの?」

何かを期待してかけているようだが、その期待が大きく裏切られていることを教えるすべはなかった。

 鋼鉄の迷惑は、受話器を置くと、コタツの上へと戻って行った。


 しばらくして、また、部屋の隅の電話がけたたましくなった。

 鋼鉄の迷惑は、ついっと電話のところに飛んでいき、着地した。ナンバーディスプレイが颯太であることを知らせている。何か見えない力で、受話器が持ち上げられるや否や、颯太は言った。

「しゃべれないなら、電話に出るな!」

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