第5話 縁切り

 颯太は、翔太に、すべてを話した。


「普通、そういう場合、捨てないか?」

馬鹿を見るような目で颯太を見ながら、翔太は言った。

「捨てる?」

(はて? 捨てるとは何だろう? とんと思い当りませんが)

という感じで、颯太が答えるもんだから、翔太はちょっとイラッと来た。

「だから、あの鋼鉄の迷惑を、どこかに捨てて、縁を切れと言っている」

翔太に迫られて、颯太もやっと話が分かった。

「あー、はいはい、『捨てる』か。『捨てる』ね。あー、その発想は無かったわ」

「何でだよ。1番に思い付けよ」

「でも、捨てるってどこに?」

「どこだって良いだろ。適当なところで」

「でも、下手なところに外来種を捨てると在来種が絶滅してしまうことも……」

「あんなもんに在来種も外来種もあるかーっ」

翔太は興奮して肩で息をしていた。

「だいたい、あれ、生き物なの? それとも、ただの物なの?」

「謎だよねぇ」

「だから、普通、そういう訳のわからんものとは、縁を切りたがるもんなんだってば」

「そういうもんかねぇ」

「そういうもんだっ! とにかく、今すぐ捨てに行くぞ」


 不思議なことに、散々、「捨てに行く」という話をした後なのに、鋼鉄の迷惑は颯太たちと一緒に外に出た。颯太たちは、まずスーパーに向かった。颯太がいくといったのだが、翔太はその意図が分からなかった。

「スーパーなんか行って、どうするんだ?」

「は? 段ボールもらうに決まってるだろ」

スーパーに着くと、颯太は店員さんに、

「みかんの空き段ボール箱は、ありませんか?」

と聞いた。

「ある訳ねえだろ! 今、7月だぞ!」

困り顔の店員に成り代わり、翔太がツッコんだ。

渋々という感じで、キャベツの段ボール箱をもらった颯太に、翔太は、

「何がしたいのかも、何が不満なのかもわからん」

と言った。

 やがて、颯太たちは、颯太が初めて鋼鉄の迷惑を見た電信柱の根元に来た。

 すると颯太は、持ってきたガムテープやマジックやもらったダンボールで何か作り始めた。そして、あっという間に完成したようで、鋼鉄の迷惑に、地面に置かれたキャベツの段ボール箱に入るように指示した。段ボール箱には張り紙がしてあり、そこにはこう書かれていた。


「この子をもらってください。なまえは『こうてつのめいわく』です。かわいがってね」


 それを見た翔太は、しばらく固まっていた。

「いやー、このシチュエーションなら、やっぱり、みかん箱がベストだよなー」

「……こ、こ、こ、この、バカ、色々バカ」

「『色々バカ』ってなんだよ」

「あーっ、もうっ、帰るっ。とにかく帰るぞ!」

翔太が、ズンズン歩いていくので、颯太は、ガムテープやマジックを急いで片付けて、後を追った。


 翔太たちは、翔太の安アパートに帰ってきた。翔太は、いつも颯太が鍵を開けると、家主である颯太より先に部屋に入ってしまう。だから、颯太は翔太に忠告したのだ。

「部屋に入るとき、足元に注意しろよ」

しかし、それは、少々タイミングが遅かったようだ。翔太は、ものの見事にコケてしまった。そう、玄関で待ち構えていた鋼鉄の迷惑につまずいて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る