第4話 翔太

 ノックの音がした。

 颯太が出てみると、友人の翔太だった。特に用事はないが、やって来たらしい。

 部屋に入ってきた翔太は、やはり、早速反応した。

「おい、これは何だ?」

と鋼鉄の迷惑を指さして聞く。

「それは、畳といってだな。日本の家庭には……」

「畳なんざ知っとるわっ。指さす方を良く見ろ。っつうか、明らかに変わったものって言ったら、これだろ?」

翔太はペチペチと鋼鉄の迷惑を叩いた。そう、今のところ、鋼鉄の迷惑は、畳の上に鎮座ましまして、おとなしく物のフリをしているのだ。

「ああ、それ? そりゃ、ただのお掃除ロボットのロンバだろうが」

「ロンバぁ? だって、あれって、丸い奴だろう。形も平べったいし」

「あれ? ぷぷっ。知らないの? 最新型は四角いんだよ」

「え? そうなの?」

「だって、考えてみろよ。丸で四角い部屋の本当の角っこがお掃除できますか?」

「あっ、いや、うーん。確かに、出来ないな」

「そうだろう。だから、最新型は四角いんだ」

「方向転換のとき引っかかるような……」

「あー、何か飲むか? なっ、なっ」

そう言って颯太は、台所に行った。

 翔太の方は、鋼鉄の迷惑をスマホのカメラで撮影した後、何の気なしに鋼鉄の迷惑の上にスマホを置いて、コタツの前の座椅子に座った。

 そのわずかな隙に、鋼鉄の迷惑の上面の天板が180度くるりと回転し、スマホを中に取り込んでしまった。

 翔太が、スマホが無いことに気づいたのは、颯太が2Lペットボトルと、コップ2つを持って戻ってきて、少し話をした後だった。

「スマホが無い」

「えっ?」

「いや、スマホが無くなってる」

「スマホが?」

「ああ、確かに、ここに置いたのに」

「……ど、どこに置いたって?」

「だから、このロンバの上に」

颯太は、溜め息を1つ洩らした。

(まー、しょーがねーな。遅かれ早かればれるんだ)

颯太は、四つん這いになって、鋼鉄の迷惑に顔を近づけると、

「出せ」

といった。

翔太は、訳が分からなかった。

「何? あっ、これ、ひょっとして、音声認識金庫機能もついてるとか?」

「出せ。出さないと……」

颯太は、自分のスマホを取り出すと翔太の携帯電話にかけた。若干の間があって、鋼鉄の迷惑の中から、激しいバイブ音とけたたましい着メロが聞こえた。鋼鉄の迷惑は、たまらず、翔太のスマホを吐き出した。

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