第3話 レポート

 颯太は、レポートをやろうとしていた。彼は、レポートの類は、真面目に自分でやっていた。能力的にも何ら問題はない。当面の問題は、この部屋の唯一の机代わりのコタツの中央に、鋼鉄の迷惑が陣取っていて、余白が、ほとんど無いことだ。

「なぁ、どいてくれよ」

そういわれても、ただの物であるかのように反応が無い。

「そういうことなら、力ずくで……」

そう言って、コタツの天板ごと、鋼鉄の迷惑を持ち上げようとするが、ビクともしない。

「すいませーん。力ありませんでしたー」

腕組みをして考えていた颯太だったが……。

「案外、くすぐりに弱かったりして……」

試しに、コチョコチョとやってみると、鋼鉄の迷惑が小刻みに震えた。

「嘘っ!」

と颯太が言った瞬間、鋼鉄の迷惑もちょっとだけ浮いて1回左右に揺れて見せた。

「『うっそ~ん』とでもいいたいのね」

(なんで俺は、こいつの言いたいことが分かってしまうんだろう)

そう思うと、ちょっと複雑な心境になる颯太であった。

「仕方がない。一か八か。あれを使ってみよう」

颯太は、ポケットから道端で拾ってきた太いボルトを取り出すと、部屋の隅に投げた。すると、鋼鉄の迷惑は、それを追って部屋の隅に飛んでいき、ボルトにじゃれて遊びだした。

「何で、俺、こいつのことが分かるのかな? 分かるから、憑りつかれとるんじゃないか?」

ぶつぶつ言いながら、レポートの準備をした。


 颯太が、レポートを書き始めたころ、ボルトで遊ぶのに飽きた鋼鉄の迷惑は、ふわりと浮かぶと、颯太の頭上2,3cmのところに移動して静止した。

「スゲー、圧迫感あるんですけど、やめてくれませんか?」

鋼鉄の迷惑は、頭を振るように左右に少し回転した。

「それに、俺が急に立ち上がったら、ぶつかるでしょうが」

沈黙する鋼鉄の迷惑。

「どうせ、避けりゃいいと思っ……」

と、セリフの途中で、突如、立ち上がった颯太だったが、鋼鉄の迷惑もその動きに合わせて、ついっと上昇してしまう。

(ちくしょう。やられた)

という顔で座る。と見せかけて、急に立ち上がる颯太。しかし、またしても、鋼鉄の迷惑もその動きに合わせて、ついっと上昇してしまう。

「はぁー、やれやれ」

と言いながら座る。と見せかけて、急に立ち上がる颯太。しかし、またしても、鋼鉄の迷惑もその動きに合わせて、ついっと上昇してしまう。恥ずかしくなった颯太は、そのままヒンズースクワットを始めるが、鋼鉄の迷惑は、その動きにすら合わせて上下する。

 颯太は、あきらめて、鋼鉄の迷惑は無視してレポートに集中する努力を始める。しかし、そんな颯太の気持ちを逆なでするように、鋼鉄の迷惑は機嫌よさそうにクルクルと回りだした。

「回転するの止めてくれんか?」

そう言って、颯太が視線をあげた瞬間、鋼鉄の迷惑は、回転を止めた。しかし、颯太がレポート書きに戻ると、鋼鉄の迷惑は、すぐにまた、機嫌よさそうにクルクルと回りだした。

「あのさ、影で分かるんだよね。回ってるの」

颯太の言葉で、鋼鉄の迷惑は、ギクリッと回転を止めた。


 しばし、固まる颯太と鋼鉄の迷惑。


「まぁ、いいや」

颯太はレポートを再開し、鋼鉄の迷惑は機嫌よさそうにクルクルと回りだした。

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