第9話 夢とおっぱいと盗撮と…


 目覚めると、そこにはいつも通りの白塗りの天井があった。

 自室の天井に右手を伸ばした状態で、陵弥は目覚めていた。

 一瞬前。目覚める前に、大きく飛び上がったのかもしれない。ぐっしょりと濡れた背中が、ベッドのスプリングが軋む感触を感じていた。

 滝のような汗で全身が塗れていた。酷い酸欠を起こしたように肺が空気を求め、顔は熱く紅潮している。

「……あっつ」

 呟き、虚空に伸ばしたままだった右手の力を抜いて、額に乗せる。塗れた腕の冷たさが、頭の熱をいい具合に奪ってくれた。

 春の朝の気候を甘く見ていたか。陵弥の生活する学生寮は、丁度この頃から二週間ばかりかけて、ベッドを厚手の布団から薄手の物に変更する。その時期は寮生が好きなタイミングで変えられるのだが……サボっていた罰だろうか、酷い寝覚めだ。

 陵弥は呼吸を整えながら、白天井をぼんやりと眺める。

「……夢、見てたよな……どんなのだったっけ」

 酷い夢だったのは覚えている。だがその内容は、もう思い出せなかった。

 風が抜けているのを感じる。窓が開いていて、籠もった熱を徐々に逃がしていた。そこでようやく、全身に張りつめていた緊張を解いた。

 胸の内に、漠然とした不安が水溜まりのように張っている。

 少し早い鼓動を、陵弥は自嘲で一蹴した。

「子供じゃあるまいし……夢ぐらい、騒ぐことでもないだろ」

 そうして、額に乗せていた右腕を下ろし……その手が、ぶつかった。

「……ん?」

 予想外の感触に、陵弥は眉を潜めた。

 陵弥たちの住む部屋は、十畳ほどの、かなり広々とした間取りをしている。二人部屋で、裸足で歩けるカーペットに、ベッドが二つ。トイレとシャワー、それと衣服などを仕舞うタンスと机が常設してある。簡単なホテル程度の設備だ。

 ともかく、拳がぶつかったのは壁ではない。生徒数に対して土地だけはあるおかげで、ベッドはギリギリ大の字になれるほどの広さがあるし、そもそも壁際に接してはいないからだ。

 というか……ぽよんと弾力のあるこれは、明らかに壁ではない。

 ふっくらと盛り上がった何かが、手の甲に当たっている。手首を回し、掴んでみる。空気の抜けたボールを掴むように、むにゅりと抵抗なく指がめりこみ、指の隙間からはみ出た。

 薄い布で包まれたそれは、とにかく何とも柔らかい。

「んぅっ……」

 甘くまろやかな、吐息。

 戸惑いを感じるままに、陵弥はついと、首を右手に傾ける。

 しどけなく衣服を乱れさせた女性が、しっとりと塗れた瞳で、陵弥の顔をのぞき込んでいた。

 自らの胸を、陵弥の手のひらに鷲掴みにされたまま。

「もう……陵くん、朝から大胆なんだから」

「うわああああぁぁぁぁ!?」

「やぁんっ」

 本気の絶叫を上げて、陵弥はベッドから飛び跳ねた。右手に握っていた胸が引っ張られて、ぽよんと弾んだ。

 ベッドから転がり落ち、そのまま壁際まで後ずさり、壁に背中を叩きつけた。

「なっ、なななな……っ!?」

 余りの驚きに、そんな素っ頓狂な声しか出ない。陵弥のベッドに潜り込んでいた麗人は、もどかしそうに起きあがると、ん~っと伸びをした。大きく上体を逸らすと、こぼれんばかりの巨乳がはだけた衣服を持ち上げる。

 眠い目を擦った女性は、聖母のような柔らかな笑みを陵弥に向けた。

「もう、慌てちゃって……危ないよ、陵くん?」

 ふわりと花開く牡丹のような、ほんわかと華やかで暢気な声。

「ちょっ……な、何してるんですか、睦美むつみさん!」

 えずくような喉を抑えて、陵弥はその名前を呼んだ。

 たおやかに胸にかかる長い髪は、毛先でほんの少しカールしている。慈愛に満ちた童顔は年齢を感じさせず、美しいという言葉さえ霞んでしまいそうだ。おっとりとゆるやかで流麗な振る舞いは、流れる時間が違うのではないかと錯覚してしまう。

 しかし、その整った顔立ちと、過剰なほどに主張する大胆なボディラインは――子供に通じる、確かな面影がある。

「心配しないで、陵くん。私はいつでも大丈夫だから。間違いなんて思う必要はないのよ」

「おかしいよね? 俺何もしてないよね!? そうですよね! 何その間違いがあったみたいな言い草!」

 詠睦美は、詠洸の母親だ。

 その経歴と現在の状況を理解するには、少し情報の加筆がいるだろう。

 詠洸は、生粋の巫女の家計である詠家の、類稀なる霊媒能力が結集して実現した、多重人格者だ。

 卓越した身体うつわと、卓越したなかみによって、詠家の人格を内に内包しており、それが交代に入れ替わることで、人格はおろか、体格、性別まで変わってしまう。

 そう――二重ではなく、多重人格だ。

 洸の身体に入っているのは、双子の姉である光だけではない。

 母親である詠睦美も同様に、魂だけとなって洸の体の中に存在しているのだ。

「でっでも、何で睦美さんがっ……洸はどうしたんですか!」

「洸はまだおねむなの。だから今、体は解放状態にあって……ちょっとだけ借りちゃった。てへっ」

 ぺろりと舌を見せて、睦美は年齢よりもずっと愛嬌のある仕草を見せた。

 寮内のこの部屋は、陵弥と洸が二人で使用している。当然ながら男性と女性は分かれているのだが、洸の体を借りて光なんかはしょっちゅう顔を覗かせる。部屋に女の子がいるという状況は、割と日常茶飯事だ。

 それでも……さっきのは完全な不意打ちだ。顔の熱は取れないし、右手にはとんでもなく柔らかい感触が染み着いて、しばらく忘れられそうにない。

 詠家の女性は愛嬌のある幼げな顔立ちなのに、とにかく発育がいい。洸から光に変わったときに、男物のシャツのボタンが飛んでしまうことなどしょっちゅうだ。

 睦美も言うように、就寝時の洸の身体は自意識が薄くなるため、儀礼も必要なく憑依できる。

 光などは特に面白がって出てくるために、洸は体格差をカバーするために、ゆったりとした甚平じんべいを寝間着にしていた。

 だが、しかし。睦美の企画外な発育は、それでいて尚、和服の許容量を限界まで張りつめさせるのだ。

 スイカと比べても遜色のない巨を越えた爆乳は、甚平の胸元を大きく押し広げ、上部と谷間を惜しげもなく晒している。衰えない張りと艶を持つ柔肌は、半分近くが露出している状態だ。

 これだけ大きく、二人の子供を育て年を重ねていても尚、美しい球状形は崩れていない。光にも通じる、重力をねじ伏せる謎の因果律はここでも働いているようだ。

 それなのに、歳を重ねた愛と熟れは、若さを確実にほぐれ落としていて……もし、仮にもし好き勝手にできるのであれば、もう人生に悔いは残らないかもしれない。そのぐらいの、魔性の欲望の化身なのだ。

「と、とにかく、早く洸を起こして下さい。そろそろ起きる時間だし、一応ここは男子寮なんですから……!」

 しどろもどろになりながら、陵弥は睦美を直視しないように言う。

 目のやり場に困るどころの話ではない。ほんの僅かでも気を抜いたら、視線はたちどころに集中し、二度とは離れなくなるかもしれない。

 朝にコレは余りに強烈だ。盛り上がってしまう。テンションとか、色んなものが。

 しかし、当の睦美はのんびりと、本当に流れる時間が違うのではと思うほどに、ゆったりと小首を傾ける。

「えー。私、本当に久し振りに体を借りたのよ。もっと、陵くんとイチャイチャしたいなぁ~」

「息子の友人になんてこと言うんですか! っていうかさっき俺のベッドに潜り込んでたでしょ。夜通しそうしてたなら、それで満足じゃないですか!」

「うん? それは私じゃないわよ。昨日の夜に、洸がどうしても陵くんと一緒に寝たくて、陵くんのベッドに入っただけだから」

「え? な、なんだ洸か。それなら……いや、それもどうかと思うんだけど、うん、まあいいや」

 洸の人懐っこさは周知の事実だし、何より睦美より遙かにマシだ。

 絶世の美人である睦美に夜通し寝顔を見られ、頭を撫でられていたとあったら……男なら全員、想像しただけで昇天してしまいそうだ。

 その様子を眺めて、睦美は口元を押さえて、くすくすと上品に笑った。

「でも、洸の気持ちも分かるなぁ。陵くん、とてもいい匂いがするの」

「匂い、ですか?」

 汗で塗れた自分の服を嗅ごうとすると、後に続いた睦美の声が止めた。

「身体じゃなくて、魂のほう。とても強い、魂の香りがするの。若麦のような、漲る生命力の匂い」

 うっとりと目を細めて、陵弥の相貌を見つめる。

 魂の香り。きっと、巫女である詠家のみが感じることができる、独特なものなのだろう。

 魅力的と言われてもぴんとこないが、睦美の熱のこもった視線に、くすぐられているようなむず痒いものを感じてしまう。

「だ・か・らぁ」

 ぽん、と諸手を打つ音と一緒に、睦美が甘い猫なで声を出した。

「私も久しぶりに、陵くんをい~っぱいくんくんしたいなぁって思うの」

「はぁ!? だ、駄目ですよそんなの!」

「うふふ。いや、とは言わないのね」

「そ、そういうことではなく! そもそも、その身体は洸の――」

「紡ぐ言の葉、耳朶じだの韻――【緊】っ」

 反応すら許さない自然な仕草で、睦美は指を組み、唱えた。

 軽い、しかし鍵を爪弾くような清涼な響きが部屋を満たす。

 睦美が放った言葉が耳に届いた瞬間、陵弥の身体は、まるで金縛りにあったように硬直した。

「ちょっ!?」

「ふふ。魂の掌握は巫女の専売特許よ。おまけに大好きな陵くんの魂なら、お茶の子さいさいなんだから」

頑丈な縄で雁字搦めに縛られたように、指一本動かすことができない。

 愉しそうに笑って、睦美はベッドの上に正座した。

「ほら、いらっしゃい」

 遊女のように、優雅でしなやかな手を伸ばし、おいでおいでをする。

 自由を奪われた陵弥は、まるで光に引き寄せられる羽虫のように、意志とは無関係にその膝元へ近づいていく。

「ぐ、ぉぉ……!」

「ふふ。必死になっちゃって、かーわいい……ますますくっつきたくなっちゃう」

 いっそ妖艶にも見える笑みで、慈母は陵弥の頭を優しく掴み、自らの膝の上へと誘った。

 操られるままに、陵弥はぽふんと睦美の膝に頭を乗せる。甚平の薄い布は遮る役目など持たず、柔らかで艶のある肉付きのいい太股の感触が後頭部にダイレクトに伝わった。

 しかし、正面。膝から見上げる、直上の景色の前に、そんな感触すら吹き飛んだ。

 理性など一瞬で薙ぎ払ってしまうような、そんな凶悪な悪魔の実が、陵弥の鼻先十センチの上で揺れていた。

 悲鳴にも似た声にならない声が、勝手に出ていた。

「ひっ――」

「ふふっ。陵弥くんも、私にい~っぱい甘えていいんだからね」

 そっと頭をなでられる。

 慈愛の心に満ちているのであろう微笑みは……間にそびえる丘陵に隔たれて、全く見ることが叶わない。

 愕然する。むしろ戦慄してしまう。

(なんっ……だ、これは!)

 近づけば、尚のこと驚かずにはいられない。

 まさに、遺伝子が成し遂げた発育の暴力!

 抵抗する術のない、母性という魔性!

 そびえ立つ二つの山は、男なら誰もが登頂を望む、絶世の頂!

(マズい……このままだと確実にマズい!)

 目を見開く陵弥の至近距離で、二つの膨らみが重たそうにずっしりと、柔らかそうにふるふると揺れている。

 圧倒的だ。このままこのエベレストを見つめていたら、陵弥のチョモランマ的なものも噴火してしまう。ぐらぐらと煮えたぎるパトスが燃えている。

(おっおちつっ、落ち着け! 騙されるな陵弥! 魂は睦美さんでもこれは洸の体だ男だぞ男なんだぐぉぉぉぉぉ)

 自分に言い聞かせて、伸びかける自分の手を必死に押しとどめる。

 苦悶する陵弥の葛藤には気づかずに、睦美は溢れんばかりの母性を見せて、陵弥の髪を撫でる。

「本当に、陵くんはいい匂いがするわ。私も、つられて若返っちゃいそう」

 甘い囁きに、意識がくらりと持って行かれそうになる。

 男であれば生まれてきたことに感謝するだろう。陵弥の状況を知ろうものなら、この瞬間怨念で殺されてもおかしくない。

 でも、目の前のこれは、洸の身体なのだ。魂が妙齢の女性だろうが、男の身体で欲情するのは、何かが違うだろう。そうだろう。そういうことにしなければ、もう一歩も辛抱できない。

(洸だ! 誰がなんと言おうとこれは洸! この一時の気の迷いのせいでこれから先気まずい思いとかイヤだろ天童陵弥!)

 陵弥のこの抵抗も、風前の灯火。

 柔らかふるふるな肉感が少しでも触れたなら、陵弥の理性はあっという間に吹き飛ばされるだろう。

 ほんの少し、僅かでも上体を屈めれば、ずっしりと重たいソレが自分の顔にたっぷりと押しつけられる。そう例えばそこにあるボールペンを拾おうとしてちょっと上体をのばしただけで、この圧倒的蠱惑的いっそ暴力的な柔らかさが――


「あら、陵くん、ボールペン落として――」

「だあらっしゃぁぁ俺が拾いますよ自分で取りますハイ取ったぁ!!」


 叫ぶのと同時、陵弥は弾かれたように睦美の膝から脱出し、魔性の隙間から抜け出した。

 バクバクと心臓が高鳴っている。息が荒い。顔が真っ赤になっているのが分かる。二度と見られないだろう光景を焼き付けようとしたのか、目やら後頭部やらがとてつもなく熱かった。

「あら……もう陵くん、やんちゃなんだから」

 睦美はそんな慌てた様子も愛おしいとばかりに、くすくすと笑う。

(『緊』の韻はまだ効いていたはずだけど……やっぱり、すごいな)

 口中で呟いて、睦美は人知れずに笑みを深くする。

「遠慮しなくていいのに~。お母さんに、もっと甘えちゃっていいのよ?」

「からかわないで下さいよ、俺は別に――」

「怖い夢、見てたでしょ?」

 心中を覗き見たような質問に、陵弥は二の句を継げずに押し黙った。

 睦美は、内容はおろか『その先』さえも見通したように、深い瞳の色で陵弥を見つめる。

 人を安心させる、ため息の漏れるような微笑をこぼす。

「……あなたは、強くなるわ」

 言葉は、陵弥の心に直接語るように、耳を抜けていく。

「陵くんの魂、ハッキリとは言えないけど、何か、とても強いものを宿しているわ。人の身では推し量れないほどの、とてもとても気高い何か」

「気高い……?」

 ハッキリとは言えない。それは伊吹の時と同じ、魂を看る詠家の人間は、本来使ってはいけない言葉であった。

 それを本人も自覚している。気むずかしい顔を陵弥には見せずに、ただ笑顔を讃える。

 睦美は自然と距離を詰めて、陵弥の両肩に手を置いた。

 息がかかるほどの至近距離で、陵弥の瞳をのぞき込む。

「きっと、あなたが想像する以上に、あなたは強くなれる。驚くほどに、目を見張るほどに、あなたは『あなた』を越えられる……だけど気をつけて。強さを求めた先にあるのは、陵くんではない何者かかもしれない」

「それは……どういう意味ですか?」

「ううん……例え分かったとしても、それはきっと陵くんが知るべきものではないわ」

 曖昧に笑って、睦美はほんの少し眉を潜める。

 僅かな間。それでこの話題が打ち切りになったことを、感覚で悟る。

 またくすりと笑って、睦美は表情を綻ばせた。

「ごめんなさいね、変なこと言って。陵くんが不安そうにしてたから、ちょっと喋りすぎちゃったかも」

「……いえ、ありがとうございます」

 内容こそ要点を得ないものだったが、自分を認め、更に案じてくれている事を強く感じた。

 起きたときは黒々と溜まっていた不安やわだかまりが、いつの間にか消えている。

 ……この人の包容力には、毎度のこと勝てそうにない。

「……さて。それじゃあ、朝飯でも食いに行くかな。睦美さんも、そろそろ洸を起こしてやって……」

 いいながら、両肩に乗った手に触れて――はたと気づく。

 微動だにしない。掴む手にこもる力はむしろ強まってきており、頑として放そうとしない。

「む、睦美さん?」

 恐る恐る顔を伺う。

 巫女である令嬢の顔は上気し、艶やかな肌は熱っぽく、ほんのり桜色に染まっていた。

 超至近距離に広がる切なげな顔はどこかしどけなく、欲望を掻き立てる艶やかさに満ちていた。

 はぁ、と湿っぽい吐息がかかる。漂う淫靡な香りに、陵弥の脳裏を、とんでもなく嫌な予感がよぎる。

 荒くなる息を隠さずに、睦美は、酔ったような震える声で、囁いた。

「ごめんね、陵くん……陵くん、やっぱりとってもいい香りでね。久しぶりすぎて、ちょっと、当てられちゃったかも」

 ぎゅっと、さらに手に力が込められる。異様に強い握力に、身の危険を感じて後ずさろうとしても、それさえ叶わない。

「あ、あのっ。睦美さん!?」

「いいのっ。陵弥くんはそのままでいいから。ほ、ほら、疲れてるでしょ? 陵くんはまだまだ、もっと甘えちゃってもいいと思うのよっ」

 いやに強い声音でまくし立て、両肩の手に更に力が籠もる。小さくなった瞳には、直線的な獣欲性が宿っていた。

 一歩を踏み込む。睦美の端正な顔がぐっと近づき、勢いで陵弥の姿勢は大きく崩された。

 獲物を見るような発情した顔が、眼前に急接近した。

「ひぃ!?」

「ね? ね? ゆっくりリラックスして、思う存分私が満足して陵くんの恥ずかしがる顔をじっくり堪能するまで、いい子いい子させてほしいな~」

「いや、あの、ですね……今なんか凄い本音が漏れてたといいますか……!?」

「大丈夫、悪いようにはしないから。私が陵くんを優しくじっくりはすはす……いいえ、くんくんするだけだから。壁の染みを数えていれば終わるからっ」

「はす!? なんすか、今何をはぐらかしたんですか!?」

 発情した睦美の顔が近づいてくる。柔らかくてダイナミックな肉体が押し倒そうとのし掛かってくる。

 豊満な肉体をそのまま欲望に転換させたそれに、もう抵抗する術などありはしない。

「はぁ……陵くぅん……いただきまーす」

「こ、洸! 早く起きろ洸! 頼むから何とかしてくれぇぇぇぇ!!」

 結局。ギリギリの所で目覚めた洸が体の支配権を奪還するまで、陵弥は涙混じりの声で叫び続け。

 カシャリ、と。

 窓の外で聞こえた微かなシャッター音には、終ぞ気づくことは無かった。


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