【悲しい童話】光満ちる場所 ~少女と葉っぱの小さな旅~

東雲飛鶴

本文

「このままじゃ、枯れちゃう……」

 少女は涙をこぼしながら、手の中の小さな植木鉢を悲しそうに見つめた。


 彼女の住む谷底の街には、コケ程度の植物しか繁殖しない。

 何故ならば、深い峡谷のせいで『朝日しか当たらない街』だったから。


 しかし、どこからか運ばれてきた種子が、街角にある彼女の家の前で芽を出した。全く、運がない。

 

 およそ植物というものは、日光がなければ生きていかれない。故にこの街の日照に適応出来ない種族は滅びるほかないのだ。



「分かっているだろ? ムリだったんだよ」兄が言う。

「でも……助けたい!」

「助けるったって……お前」

「お日様に当ててあげれば良くなるんでしょ、お兄ちゃん。お日様はどこにいるの?」

「さあな。この谷の外のどっかだろ」それだけ言うと、彼は家の中に入っていった。

「谷の外……」


 彼女はそうつぶやくと、点々とランプの星が灯る薄暗い谷を仰いだ。空のない天を。



 その夜、彼女は家を出た。ぐったりとした小さな植物とともに。

 小さな彼女は誰にも見つからずに街の門をくぐった。

 初めて街の外に出た興奮で、彼女の足は軽やかだった。


 だが外の世界からはまだまだ遠かったのだ。十歳にも満たないほどの子供の足では、日光の当たる場所は無限の距離に思えた。


 空が白みかけた頃、外に着いた彼女は全天のパノラマに心を奪われた。

 地平の彼方から大きな光が出現し彼女は我に返った。


「ほらお日様だよ」

 そう言ってリュックから植木鉢を出し、日にかざした。





 ――ジュッ!


 次の瞬間、彼女は蒸発した。

 人々が太陽と呼ぶ、防犯システムによって。

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