第二十三話 午前零時から午前六時 フローラ
カール国王の話を聞き終えて病院を出た時には、時刻は午前零時を僅かに過ぎていました。
「送っていきますよ」
そう言って前を歩き出したアルバート王子に、小さく頭を下げて私は従います。
この緊急事態の只中で、王子に負担をかけるのは本意ではありませんでしたが、一方で私はまだ王子と離れたくはなかったのです。
その時、私の頭の中は先程までのカール国王のお話で一杯になっていました。
星の住民の大半を大災害から救い出した功労者の血脈であるにもかかわらず、それでもなお救えなかった命に対する贖罪の日々を、二百年に亘って過ごしている人々。
他に選択肢のない極限の状況下で、最終的にその決断をしたのが自分であるという事実を、十字架として背負い続けている一族。
どうしてそんなことをしなければならないのか、私には理解が出来ませんでした。むしろ、祖先の功績を褒め称えてもよいのではないかと思ったぐらいです。
そして、私はそれを素直にアルバート王子に訊ねてみたかったのでした。
「あの、王子――どうしてクラウス家の皆さんは、今でも罪の意識を持ち続けているのでしょうか?」
アルバート王子が振り向きます。私の不躾な質問にもかかわらず、彼の目は優しい光を
「そんなのはやりすぎじゃないか――フローラさんもそう思いますか?」
「……正直、そう思います」
「貴方は本当に素直な方ですね。その素直さがとても
「そんな、私よりも王子のほうが素直であるように思いますけれど」
「あははは、貴方にそう言われるととても嬉しいなあ。実施のところ、そんなに素直な人間ではないんだけどね」
王子は、頭をかきながら照れたような表情を浮かべると、すぐに真顔に戻って話を続けます。
「確かに、普通はこんなに長々と罪の意識を持つ必要はないかもしれないね。祖先のやったことを考えると、その勇気を誇りに思ってもいいくらいだ」
「それが分かっているのなら、どうして――」
私は思わずそこで口を挟んでしまいましたが、王子は相変わらず穏やかな表情のまま、こう続けました。
「もちろん、祖先を誇りに思う気持ちはあるけれど、罪の意識もある。これはもう、クラウス家の信念としか言いようがないね。星の住民たちが『許す』と言ってくれるまで、僕達の贖罪は終わらないんだよ」
私は、王子のその静かな物言いに、それ以上何も言えなくなってしまいました。
ホテルの正面玄関で王子と別れると、私は少しだけ重い心を抱えて中に入りました。
既に深夜を過ぎている時間なのに、フロントのカウンターには若い男性が立っています。彼の顔を見て、私は、
――そういえば、宿泊予約は朝までだったな。
と思い出しました。共有端末を使えば日程を変更することは簡単に出来ますが、その時は変に人とお話がしたい気分だったので、私はフロント係に近づきました。彼はカウンターの向こう側で笑みを浮かべております。
「あの、宿泊予約のことなのですが……」
「はい、フローラ様。確かに延泊の件は承っておりますよ。当面の間はご滞在になるということで」
「……はあ、あの、それは一体どなたが手配されたのでしょうか?」
「昨日の午後七時ぐらいでしょうか。王宮から延泊の連絡がありまして。まあ、当ホテルと致しましても、宇宙港が閉鎖された状態ですからフローラ様には延泊をお勧めしなければならない、とは思っていたのですが、先手を取られましたね」
そう、にこやかに笑いながら話す男性に、私は目を丸くしてしまいました。
ネットワークと生体認証の発達により、日常生活における全ての手続きが簡略されたこの時代において、スタンダードな考え方は「自分のことは自分でやる」です。
「自己責任」という考え方が社会の隅々まで浸透し、誰かの世話になるのは一人前の人間のやることではありませんでした。
それに、サービスというのは「自分では簡単に出来ないことが出来る」、あるいは「不便な点が解消される」からこそ意味があります。
他人の手を煩わすことなく、何でも自分ですぐに出来るようになってしまった現代においては、変に気を回してサービスすることでかえって顧客に迷惑をかけることすらあります。
ところが、この星においては政府機関にしても一般住民にしても、相手の気持ちを斟酌し、先回りしてサービスするという習慣が、いまだに残っているのです。
それでやっと他の星の住民とこの星の住民の、あり方の違いが分かったような気がして、私はとても驚きました。
私が急に黙ってしまったからでしょうか。
フロント係の男性は怪訝そうな顔をしながら言います。
「何か問題がありましたでしょうか? それでしたら私のほうから王宮にご連絡を――」
「あ、いえ、何でもありません。むしろ大変有り難いです」
慌てて否定する私に、暖かい微笑を投げかけながら、彼は言いました。
「そうですか。それでは引き続き当ホテルのサービスをご利用頂けると嬉しいです、フローラ様」
話さえまとまってしまえば、後はすることがありません。部屋の鍵には生体認証が利用できますから、期間中は出入り自由です。
私はフロント係が見送る中、エレベータに乗りこみました。
そして、扉が閉まって彼の笑顔が消えた時のことです。
私はやっと、その日最大の疑問に行き着いたのでした。
――これほど他人を慮る星の住民達が、どうしてクラウス家を許していないのだろう?
*
翌朝、私は寝不足の頭を振りながら、ホテルの正面玄関を出ました。
あれからすぐにベッドに横になったものの、カール国王が語った二百年前の出来事が頭から離れませんでした。
どう考えても、私にはクラウス家に非があるとは思えないのです。しかし、アルバートの言う「クラウス家の信念」も理解出来ますし、それに余所者に過ぎない私がとやかく言ってみても、何の解決にもならないのです。
これはクラウス家と星の住民との間でだけ解決可能な問題なのでした。そして、星の住民たちがそう言い出さない以上、クラウス家は過去の
それがクラウス家に対する星の住民の報復だとしたら、まだ話が分かりやすいのですが、そうでないことも昨日まで見聞きした事実が教えてくれています。いろいろ考えているうちに混乱してしまい、やっと眠りに落ちたのは午前三時前でした。
三時間も寝ていないことになりますが、やはり王宮の今後が――いえ、正直に言いますと王子の今後が気になって、再び寝ることも出来ませんでした。
重い足取りで王宮のあるビルの前に到着した時、私は昨晩とは違う様子に気がつきました。
早朝にもかかわらず、ビルの正面玄関では大勢の人々が出入りしているのです。
ビルの中に入ってゆく人々は、だいたいが急ぎ足になっています。
ところが、ビルから出てくる人々は、手に紙袋を持って嬉しそうな顔をしながら、ゆっくりとした足取りで立ち去ってゆくのでした。
事情が上手く飲み込めない私は、いつものように明るい表情で正門ゲート横に立っている守衛さんに訊ねました。
「おはようございます」
「あ、フローラさん。おはようございます。随分と早い時間にお出ましですね」
「いろいろと気になってしまって。ところで、何だか今日は出入りが激しいですね」
私がそう言うと、守衛さんは相変わらずのんびりとした表情でこんなことを言い出します。
「朝御飯は食べましたか?」
「いえ、まだですが」
「おお、そいつは良かった。今日は朝から王宮の食堂で炊き出しをやっているんですよ」
「でも、私は王宮のスタッフでもなんでもありませんが」
私がそう言った途端、守衛さんは一瞬だけ驚いた表情をしてから、大笑いしてこう言いました。
「あははは、この星では誰もそんなことは気にしませんよ。ここにいる以上は家族みたいなもんだからね」
王宮の食堂――正しくは王宮の入っているビルの共用食堂ですが、皆さんそう呼んでいるようです――は地下一階にあり、同時に二百人近い人間が利用できるほどの広さがあります。
普段はそこに机と椅子が整然と並べられているようですが、今は壁側に積み上げられていました。
食堂の中央には机が二つ並べられていて、そこで二人の「女性」が紙袋を人々に手渡しています。
それはビルの入口で人々が手にしていた紙袋と同じもので、つまりは『炊き出し』なのでしょう。
ゆっくりとそこに近づきながら、
「果たして本当に列に並んで受け取るべきだろうか?」
と逡巡していた私は、二人のうちの一人がロザリンド女王であることに気がついて驚きました。
昨晩、女王様は私と同じ時間に病院を出ました。それなのに、こんなに朝早い時間から食事を配っているのです。つまり、殆ど寝ていないに違いありません。
私は思わず駆け寄って、
「女王様、私も何かお手伝いします!」
と宣言してしまいました。
女王様は疲れの見えない笑顔で言います。
「有り難う。ちょうど先に支度した分が心許なくなってきたところだったから助かります。私は追加分を調理するので、ここをお願いできますか?」
「喜んで!」
ロザリンド女王はにっこりと笑うと、静かな足取りで厨房に姿を消します。
それを見送ってから、私はやっともう一人のほうを向いて、
――あれ?
と、戸惑ってしまいました。そこにいるのがロッテ王女だと、すっかり思い込んでいたからです。
そころが、そこにいたのは癖のない黒髪を肩の上まで伸ばした方でした。
前髪を眉のところで切り揃え、その下に二重瞼の黒くて大きな瞳があり、肌は透き通るような白さで、健康的な赤い唇が浮かび上がって見えます。
総じて女性的な外見なのに、どこか中性的な印象を受ける人形のような姿――『ひかり園』のマリオンさんでした。
それで、私はどうしていいのか分からなくなります。なにしろ、『ひかり園』ではまともに話も出来なかった上に、恥ずかしい姿を見せてしまったのです。
それを思い出すと顔が赤くなってしまいました。
そんな私の心を慮ったのでしょう。マリオンは私のほうを向くと、
「先日はご挨拶も出来ずに大変失礼致しました。『ひかり園』のマリオンです」
と言いながら、先に丁寧にお辞儀をしました。その何気ない仕草で、私の緊張は即座に解けます。
(ああ、この人はとても良い人だ)
と、私は内心、深い感銘を受けつつ、
「はい、私もお話しすることが出来なくて残念に思っていたところです。共同通信社のフローラ・ベルモンドです」
と、思った以上にすんなりと挨拶をすることが出来ました。
ただ、その時は並んでいる人がおりましたので、そのまま会話を続けることが出来ません。私は自分の前にいる人に向き直ります。すると、目の前の男性は、
「はい」
と言いながら、右手に持っていた綺麗に畳んだ紙袋を差し出してきました。
「は……その、あの」
私は一瞬、状況を把握しきれずに慌ててしまいました。周りを見回すと左手側に同じような紙袋が重ねてありましたので、
「あ、有り難うございます」
と言いながら紙袋を受け取って、そこに重ねました。
そして今度は、右手を出したままの男性としばし見つめあってしまいました。
「あの……朝食をいただけるかな」
そう申し訳なさそうに言う男性に、私ははっとして、
「あ、どうもすみません、すみません!」
と言いながら、新しい紙包みのほうを手渡します。男性は嬉しそうな顔になると、右手を振って出口に向かって歩き始めました。
そして、私が視線を目の前の男性に戻すと――
彼もまた同じように畳んだ紙袋を差し出しているのでした。
そのまましばらくの間、空の紙袋を受け取っては中身の入った紙袋を渡すという動作を繰り返していると、次第に周囲を見回す余裕が出てきます。
星の住民の皆さんは、まるでいつもそうしているかのように整然と列に並び、例外なく空の紙袋を差し出しては新しい紙袋を受け取り、そしていつものことのように速やかに列を離れてゆきます。
それは、今現在この星が直面している緊急事態とは似つかわしくない、とても整然とした光景でした。
他の星であれば、多少なりとも混乱が生じているところでしょうが、そんな様子は微塵も感じられません。それどころか何か愉しいイベントでも始まったかのような、穏やかな空気すら流れているのです。
実際、あちらこちらで列に並んだ住民同士が談笑している姿すら見られます。私もなんだか肩の力がすとんと抜け落ちてしまいました。
そのためでしょうか。
今度は隣にたっているマリオンさんのことが気にかかるようになります。
彼女の動作はとても優雅でした。紙袋の受け渡しという単純な動作の繰り返しなのに、それが事務的なものではなく、あたかも舞踏か何かのように優雅なのです。
例えば、新しい紙袋を渡した瞬間――普通であればすぐに手を引っ込めるところを、彼女は相手の手に確実に収まったことを確認してから、ゆっくりと手を戻します。それはまるで大切な品物を相手に託しているかのような丁寧さでした。
なので、私もそれに
すると今度は、受け取る星の住民の皆さんの表情の違いに気がつきました。
もちろん、皆さん最初からフレンドリーな対応だったのですが、私が自分の動きを変えると、一瞬だけ、
(おや?)
という表情をしてから、さらに嬉しそうな表情になるのです。そのことが妙に嬉しくなって、私は受け渡しに神経を集中してしまいました。
それででしょうか。
さらに別なことに気がつきます。
渡される方の空の紙袋の端、あまり目立たないところに、そこをまるで狙ったかのように文字が手書きされているのです。
そして、その文字がある時は英語、ある時はフランス語、それどころかラテン語、ハングル、キリル文字になっているのです。
私は記者という職業柄、すぐに読むことは出来ないまでも「どの時代のどの国の言葉なのか」は参照出来るようにプラグインを実装しています。
おかげで先日、アルバート王子が差し出した文書がラテン語であることに気づくことが出来たわけですが、驚くべきことにその私にも即座に判断できない文字もありました。
印刷されていれば紙袋のデザインの一つと考えたところです。
しかし、明らかにそれらは手書きの文字で、そして、そもそもこの時代に手書きの文字を見ることは稀でした。
勘亭流のような崩し字は、流石に標準的なプラグインには含まれておりませんから、その一種かもしれません。
私は受け渡しに集中しつつも、その文字を目で追いかけます。崩し文字となると標準文字のデータベースだけではその文字の由来を知ることはできませんから、公共のデータベースから辞書プラグインを実行する必要があります。
そこで、手を動かしながらも小さな声で公共データベースへのアクセスを試みました。
ところが、
(あれ?)
データベースへのアクセスが拒否されたのです。
ただ、今は緊急事態の最中ですし、情報統制は当然のことですから、この星の住民では私は拒否されても仕方がないかもしれません。
そんなことを考えながら、アクセス拒否のメッセージを斜め読みしていると、
(あれ? あれれ?)
表示された警告メッセージには、
「現在、このデータベースは管理官権限によりアクセスが制限されています」
と表示されているのでした。
ということは、一般権限によるアクセスすべてが拒否されていることになります。
私がそれで呆然としていると、優しく肩がたたかれました。
「休憩しませんか?」
私が慌てて横を向くと、マリオンさんがほほえみを浮かべています。
それで、私はのぞき見を見られたような子供のような気分になり、
「あっ、その、はい、すみません、そうします」
と、顔を赤らめながら口ごもってしまいました。
マリオンさんは近くにいた方に声をかけて、受け渡し役をお願いすると、
「さあ、こちらで少し休みましょう」
と言いながら、私を奥にある調理人用の休憩室らしき部屋に私を導きます。
「それに、フローラさんはまだ朝食を召し上がっていないのではありませんか?」
そう言われて、私は自分がとてもお腹がすいているという事実を思い出します。
「……はい」
なんだか、すべてを見透かされているような気分になりながら、私はマリオンさんの後ろについて、部屋に入りました。
部屋の中には私達以外には誰もおりません。ただ、部屋の中央に机と椅子があり、そこには既にサンドイッチが準備されているのでした。
それを見た途端、私のお腹が小さく「きゅう」と鳴ります。
それで私がさきほどよりも赤くなっていると、マリオンさんは優しい笑顔を浮かべながら、
「私もお腹がすいてしまいました」
と、ポットから紙のコップに液体を注ぎます。
部屋中にコーヒーのよい香りが満ちてゆくのでした。
サンドイッチは、一見するとシンプルなハム入りのものとタマゴ入りのものでした。
「これは女王様が作ったものなのです。それでは頂きましょうか」
そう言ってマリオンさんがハムサンドに手を伸ばしたので、私はなんとなくタマゴサンドのほうに手を伸ばしました。
別に他意はないのですが、それでも「意識していない」と言ったら嘘になります。なんとなく、アルバート王子の幼馴染らしいマリオンさんが気になるのです。
マリオンさんのほうはまったく含むところはないらしく、サンドイッチを一口頬張ると、
「むふん」
という感じで息を吐き出して、とても幸せそうな顔をしました。
その表情が、同姓であるはずの私から見ても可憐で、私は少しだけ気分が重くなります。
そして、タマゴサンドの端を一口だけ齧ってみると、
「むふん」
という息が、思わず零れてしまいました。
この時、私は生まれて初めて「満足のいくサンドイッチを食べた」気分になったのです。
もっと手の込んだものは何度も食べたことがありますし、自分で作るときには似たようなシンプルなものになるのですが、それらとは別次元の食べ物です。
恐らくは、素材に何か細かい手作業――タマゴの混ぜ具合が絶妙であるとか――が施されていたり、隠し味で何かが加えられていたりするのでしょうが、それが絶妙なのです。
おかげで私の気分はすっかり上向きになりました。
美味しい食べ物は偉大です。
誰しもその前においては、難しい表情や隠された感情を維持することが出来なくなります。
私とマリオンさんは、お互いに笑顔を交わしながら、しばらく黙って食事をしました。
そして、美味しい食べ物は人と人の間を近くします。
私は、上向きすぎた気分をコーヒーを飲んで落ち着かせると、気になっていたことをマリオンさんに尋ねることにしました。
「どうしてこの星の皆さんは平然としていられるのでしょうか?」
「どうして、ですか?」
マリオンさんは一瞬意外そうな顔をすると、そこで何かに気がついたようにはっとしてから、急に笑顔になりました。
その一連の表情の変化の鮮やかさが、私にはとてもまぶしく感じられます。しかし、今度は先ほどのようなマイナスの感情は浮かんできません。
彼女は私の視界の中で小さく笑いながら、こう言いました。
「まあ、この星の住民で王様や王子が、何か人に言えない陰謀を企んでいたと思う者は一人もいませんから」
それは何の気負いもない、ごくあたりまえの言い方でした。「今日は天気がよいですね」と言っているかのような、それはもう普通の言葉なのでした。
「ただ――」
そう言うと、今度はマリオンさんの眉が少しだけ潜められます。
「――同時にこの星の住民は全員、同じ懸念を持っているはずです」
「それはどのようなことでしょうか?」
次から次に変化するマリオンさんの表情に驚きながら私が尋ねますと、マリオンさんは真剣なまなざしを私に向けて、言いました。
「それは、王様にしても王子様にしても、最後の最後、本当に問題が回避できなくなったときには、きっと住民に危害が及ばないようにするために、自分達が犠牲になることをいとわないだろうという点なのです」
「犠牲――ですか?」
私がマリオンさんの言葉の中に現れた不穏な言葉を繰り返すと、彼女は真面目な顔のままで言いました。
「二百年前の話は聞かれましたか?」
「あ、はい。王様から聞きました」
「……王様から? お会いになったんですか?」
マリオンさんが意外そうな顔をしたので、私は「あ、これは言ってはいけないことだったのかな」と焦ります。
それが表情に表れたのでしょう。マリオンさんは微笑むと、
「あ、別に詰問しているわけではないです。王様は気さくな方なので、会うのが難しいというわけではありません――」
そこで、今度は微妙に言いよどんだかのような間合いが開いてから、マリオンさんはこう話を続けました。
「――では、この星の立憲君主制の成り立ちはご存知ということですね」
私は実のところ、その間が気になっていましたが、
「はい」
とだけ答えます。
すると、マリオンさんは私から視線をそらして、少しだけ上を向きました。彼女の
「ではお分かり頂けると思いますが、王族の皆さんは星の住民に対して深い罪の意識を抱いているのです。重い貸しがあって、それをいつか必ず返そうとと考えているのです。その機会があって、その結果で犠牲になるのが自分達だけになるのであれば、彼らは躊躇うことなく実行するでしょう」
そして、彼女は私に視線を戻すと、瞳の奥に強い光を宿しながら、こう言い切りました。
「そして、私たちはそれをどんな手段を使っても、阻止しなければいけないのです」
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