第十八話 午後六時 亜呂蔵親方

 互いの殺気が充満し、目に見えそうなほどに高まった瞬間だった。


 亜呂蔵親方が腹に抱えたドスを抜いて、全員に突入の号令をかけようと身構えた時――その画面が、全員の目の前に一斉に表示された。

 治安維持軍の将校と名乗る男の言葉を、黙って聞いていた彼らの中の一人が、

「こいつ、頭がおかしいんじゃないの?」

 と呟く。それで全員のモードが切り替わった。

「おい、止めだ、止め。全員今すぐ『大江戸プラグイン』切れ!」

 亜呂蔵――アロンゾが光モールス信号を全方位に向けて発信する。

「イエーガー、お前のところもだ」

「ちぇっ、分かってるよ。まったく、いいところだったのになあ。全員『禁酒法プラグイン』オフだ」

「なんだよ、するってぇとそっちの連中は、今までシカゴの波止場はとばにいたのか?」

「アロンゾ、光モールスが元に戻ってないぞ」

「うるせえ、長く使ってたから癖が抜けるのに時間がかかるんだよ」

 アロンゾは自分の船体をイエーガーの船体に近づけると、ケーブルを伸ばして有線通信回路に接続した。

 治安維持軍に通信を傍受されないようにするための策である。

「あんまり寄るなよ、アロンゾ。俺にはそっちの趣味はないからな」

「うるせえ、俺だってねえよ」

 周囲に浮かんでいたHIM船はお互いにケーブルを伸ばして、一枚の布のように繋がった。

「えーっと」

「今は急ぎだから横からごちゃごちゃ言わない。好きに喋れよ、アロンゾ」

「わりい、イエーガー。みんな、ちょいと大江戸から抜け切れていねえから、そっちのモードで喋るぜ」

 全てのHIM船から光モールスで「合点」の返事がある。

 アロンゾはムードスタンプ「苦笑」つきで、有線通信を開始した。

「訳は今見た通りだ。治安維持軍がおかしなことをほざいている。しかもこいつぁ、どう考えても王様か、王子様狙いだ」

 全てのHIM船から光モールスで「同意」の返事がある。

「済まねえが、ここで一時休戦だ。喧嘩の相手が違う。うちの連中は集まってくれ。今から治安維持軍の戦力を探りに行く。軍艦は目がいいから、光り物はまとめてここに置いていけよ。出来る限り一般船舶の振りをするんだぞ。イエーガーのところには、港の外に出てる連中の取りまとめをお願いできるか?」

「ああ、任せとけ。全員かき集めてくる。集合は六番資源衛星の裏側、軍からも港からも見えないところでいいな」

「話が早いじゃねえか、上等だよ。じゃあ、頼むぜ」

 彼らは有線接続を切り離すと、おのおのの役割を果たすべく速やかに動き出す。

 アロンゾは船体下部に設置していた、炭素素材から苦労して切り出した一点物のブレード・モジュールを切り離しながら、

「こっちは無事だ、安心しろ」

 という光モールスを、宇宙港に向けて発信した。宇宙港の回転軸先端にある照明を見る。照明はずっと、灯ったままだった。

 ということは、宇宙港全体が治安維持軍と伊藤の管理下にあると考えて間違いない。

 ――お芳。

 アロンゾは彼女の安否を気遣ったが、今はどうすることもできない。

 それに、お芳のほうが場馴れしているから、今頃は自分をシステムから切り離して、どこかに姿をくらましていることだろう。


 なにしろ、彼女はアロンゾのような全身保存容器かんおけではなく、脳幹保存容器きんぎょばちだ。

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