第十四話 午後十時 アデニール及びキール

 末梢神経に髪の毛を数本引っ張られたくらいの微弱な刺激を感じ、アデニールは回線を繋いだ。

(キールです。三十一秒五七遅れました。申し訳ございません)

 非常時なのに相変わらず時間に細かいキールに、アデニールは苦笑しながら言った。

(今どこにいる?)

(近くのホテルにおります。本体をこの星の情報網から分離し、その上で情報偽装を施しておきました)

(上出来だ。それで、一体何が起きているのだ?)

(詳しい情報は軍の秘匿回線経由でやりとりされているために、なかなか聞き取れません。さすがは治安維持軍です)

(ふむ)

(それに、都市管理者が全面協力しております)

(何――アルバート王子が回線の使用を許可したということか?)

(いえ、そのようなご判断を王子様がなさったという形跡はございません。これは、都市管理者の自発的な意思に基づく協力です)

(つまり、都市管理者は治安維持軍の一味だ、ということか)

(そうなります)

(分かった、引き続き情報収集をお願いする)

(了解)

 アデニールとの回線が切断される寸前、キールは彼女の感情表現モードの中に若干の焦りがあることを認識した。

 常にはないことである。

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