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「別にだまそうとか思ってたわけちゃうで。せやけど関西弁で取り調べなんかしたらほんまガラ悪うてな、どっちがワルやて話になるから使わんようにしててん。標準語苦手やから無口になったっちゅーだけのことで」
刑事課に戻り、後頭部に氷のうを当てながら、俺はそんな言い訳を聞かされている。
この、関西弁でペラペラよくしゃべる男。これがあの、憧れの狼刑事、大上貴紀その人である。
「そんな怒んなや~」
「怒ってませんよ」
「その敬語が怒ってるっちゅーねん」
「仕方ないでしょ、アンタ俺より先輩なんだから」
「せやからその先輩ってのもむずがゆいねん~」
心なしか、刑事課全体からくすくす笑い声が聞こえてくるようなこないような。つまり皆さん、ご存じだったんですね? 俺の憧れる刑事の正体を。
「やー、大上さんキャラ崩壊しちゃってますねー」
俺の隣にひょっこり現れて、しきりに感心している芝田くん。君、トラブルの元凶だって自覚ある?
「おまえが余計なこと吹き込んできたから話がこじれたんだろ!」
「余計なことってなんだよ。監察が大上さんをマークしてたのは事実だし、公安が動いてたのも嘘じゃないぜ?」
「それだよ。結局なんで大上さんが監察にマークされてたんだ?」
「ああ、それな。俺よく言われんねん。単独行動が多すぎるって」
それ監察っていうより学級委員長レベルじゃないのか。暇なのか監察。俺の憧れの警察像がそこここから崩れ去ってゆく。
「一応聞いときますけど、なんで単独行動に出てたんですか」
「なんでって……なんとなく、いつも通りやな」
いい笑顔で返されましたけど、そのなんとなくでどれだけ迷惑こうむったかご存じですかね?
「それにあの女。何者なんですか?」
「あれはまあ、俺の妹」
「いもうと!?」
「ちなみにあいつな、まだ十七」
「じゅうしち!?!?」
ダメだ、現実的思考が現実に追いつかない。
「ちょっと整理しましょうか。ええと、妹って、どう見ても外国人でしたけど」
「俺と腹違いってやつでな、あいつハーフやねん」
「で、十七だからまだ高校生ですか」
「アメリカ暮らしでな。今学校休みやねんて。あいつ刑事ドラマが大好きやねんけど、俺がDVD全巻借りとるから取り立てにきたらしいわ」
「つまりあの格好は」
「コスプレやろうな。標準語もドラマ仕込みやで」
ああ納得。色々納得。(そして同じ刑事ドラマオタクとしてはちょっと心がイタイ。)
つまり俺は、なにからなにまでカンチガイをしていたということか。
「白川ちゃ~ん、どうよ?相棒の正体見たり、枯れ尾花、ってね」
課長がとても楽しそうに会話に加わってくる。この人も立派な共犯者だ。
「課長は知ってたんですよね、大上さんの正体に」
「ま、ね~」
「でも俺には言わなかったと」
「憧れを壊しちゃ悪いじゃない?」
「……もしかしてそのオネエ言葉もヤラセなんじゃ」
「あれ、さすがにバレちゃったか。なあ大上」
「俺の仕込みとちゃうんで振らんといてください」
刑事生活、約二ヶ月と二週間。
俺は、人を信じる愚かさを学びました。
もう二度と、誰も信じるもんか。
この狼少年どもがーーっっ!
――こうして、嘘と欺瞞に満ちた俺の刑事生活は幕を開け、そしてまだ、始まったばかりなのであった……。
オオカミ刑事と新米刑事《ヒツジ》 たまの @tamano
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