無駄に壮大にしてみる。 その壱

阿井上夫

無駄に壮大にしてみる。

*ピアノソロの曲が流れる中、ナレーションが始まる。


 その日は普通の日のはずだった。


「寝坊した!」


 朝の始まり。そして世界が変わる前触れ。


「ママ―、おふくがないよぉ」


 すべては静かに背後から忍び寄って来る。


「そこにあるでしょう、ちゃんと探して」


 今ここから始まる、少年の物語。


「牛乳ぐらい飲んでいきなさい!」


 監督 ― 阿井上夫


「いってきまーす」


 少年 ― 阿井上夫


「いってらっしゃい」


 母親 ― 阿井上夫


「いってらっしゃあい」


 妹 ― 阿井上夫


「ほら、ハムちゃんも」


 ハムスター …


「うきゅ?」


 ハムスター ― 阿井上夫


*一転して、軽快なギターとドラム。


「おい、知ってるか」


 友の何気ない一言が、少年の未来を変える。


「あいつ、昨日行ったらしいぞ」


 呪われた言葉、現れた悪意、縛られた未来。


「臭せえな」


 少年は知る、世界が何で出来ているのかを。


(なんだこれ)


 気配


(ちょっとなんで)


 徴候


(やばい!)


 症状


(いてて)

 

 そして、大きな波が来る。


(あ、う)


 少年を飲み込むために。


(どうしたらいいんだ)


 絶望、そして――


(そうだ――)


 福音。


(職員室の前なら誰もこない!)


*音楽が消え、太い男性の声でタイトルコール。

 『High V.E.N.(ハイ・ヴェン)』


*フルオーケストラの壮大な音楽。

 それをバックに、女性ソプラノの高らかな歌声。


(急げ)


 少年は走る、未来に向かって。


(急ぐんだ)


 世界の終わりを止めるために。


(でも、なるべく目立たないように)


 そして、自分の誇りを失わないために。


(あ)


 しかし、そこに立ちはだかる強敵とも


「ドッジボールしない?」


*音楽が消え、太い男性の声でタイトルコール。

 『High V.E.N.(ハイ・ヴェン)』


*最初のピアノソロに戻る。


『少年のカツヤク(筋)に、こっちまで緊張する』 黄泉売新聞


『最高ケツ作! 尻ーズ化ケツ定!』 浅誹新聞


『「穴とイキの女王」の記録を更新!』 マイ・ニッチ新聞


『私の中の中学生が号泣した』 日本軽(犯)罪新聞


*音楽が消える。


「ふーっ」


 世界を救い、自分の未来を守った少年に、迫りよる最後の恐怖。


(カツ、コツ、カツ、コツ)


 最強の敵が今、現れる。


「――先生」


*太い男性の声でタイトルコール。

 『High V.E.N.(ハイ・ヴェン)』


「ママー」


 君は最後まで耐えられるか。


「このぎゅーにゅー、ふるいよぉ」


*太い男性の声でタイトルコール。

 『High V.E.N.(ハイ・ヴェン)』


 特別前売券には、ゆるキャラ『ヴェンちゃん人形』がついてます。


( 終り )

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