猜疑と隼
日中の日差しが渇いた大地を照りつけて、砂地が白く輝いていた。なだらかな窪地に満々と湛えられた水が、ぼちゃぼちゃと波打っている。数人が袋から団子状になった毒薬を取り出すと、中身をオアシスへ投げ入れる。それを黙って見つめていたルークに、ハリルは苦笑を浮かべた。
「今度は誰と喧嘩をしました?」
そっぽを向いたルークに、ハリルは苦笑いを深くした。
「今日はイスマイーラと一緒じゃないんですね」
特に用向きが無ければルークのそばにいるはずなのに、今日は朝から姿が見えなかった。
「あいつなら、
「用……というほどでもないですけど」
言いよどむように口ごもり、やがて、ハリルは探るような声色で訊ねた。
「イスマイーラはカムールの
「突然何だ」
「いえ、俺達と同じ
カムールのことなら教えてあげられますと、ハリルはにこりとした。
「氏族はどちらですか」
「……シリルだ」
ハリルの瞳に、刺すような鋭い光が一瞬だけ現れた。
「たぶん、アル・リドから亡命してきたんだろうと思う」
「珍しくもない話です」
アル・リド王国とアル・カマル皇国の国境付近ではよくある話だ。曰く、領主の圧政や
「あいつは、その、口数が少ないから誤解を受けやすいと思うが……悪い奴じゃない」
「信頼しておいでだ」
「当然だ。そもそもイスマイーラが信頼できないような奴だったら俺と一緒には居ない。イダーフが同道を許可しないだろう」
「俺は直接イダーフ様を存じ上げませんから何とも言えませんけど……少し思い切りが良すぎじゃありませんかねぇ。だって、シリルでしょう?」
ハリルの言い草に、ルークはむっとした。
「確かにイスマイーラは
周りから蔑まれているからと言って、蔑んで良い理由にはならない。
ルークに睨みつけられたハリルは、顔を歪ませた。
「……殿下のそういうところは嫌いじゃありませんよ。でも少しは」
「でも、なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
完全に気を害したルークに、ハリルはこれ以上の言葉を紡ぐことは出来なかった。しかし、胸にわだかまるもやもやとしたものがあるのも事実で。
(
最初イスマイーラが
(マガンから硝子谷へ
そして
(ひっかかるんですよねぇ、彼)
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