真意はどこに?
「ボクの感想を聞くノは止めといたほウが良い。キミの得にならないヨ」
後悔するだろうとイリスは語る。けれど、ウィゼルは食い下がった。
「エル・ヴィエーラからの圧力があったというわ」
「あの国もボクも、一番大切なのは
「随分こだわるのね」
「もちろんこだわるサ。ボクの存在理由だもの」
「存在理由……?」
「罪をね、
ウィゼルも聞いた事があった。
「あノ大戦争は終わった。沢山の犠牲を払ってネ。帝国と王国は崩壊し、戦争で疲弊した国々も次々に滅んでいっタ」
その後にやって来たのは、誰もが知る歴史の闇。かつての文明を葬るきっかけとなった、恐怖と混乱の時代。
「それをもたらしたのが
「もう一つ?」
「この国が隠しているモノだ。キミ達の大事な皇子様は、その
それでも、仕方ないかとイリスは苦笑した。
「
「封印なんかしなくても、使わなければ良い話よ」
イリスが片眉を上げた。
「いまマさに、強大な王国に飲まれヨうとしているこの国が、大人しく滅ブと思う?」
手元にいつでも使える強大な力を握っているというのに。
イリスは噛んで含めるように囁いた。
「絶対に使わないって、言い切れル?」
「……試さないで」
ウィゼルはイリスを睨み据えると、刃を突きつけた。
イリスの目に、面白いものを見るような光が灯った。
「なに、どっちが正しいか、やリあうノ?」
「やめな、お嬢ちゃん!」
アリーが叱るような顔つきで二人を睨んだ。
「坊や、命を助けてくれたことは感謝するよ。けどね、あたしらはあんたと戦うつもりは無いんだ。お嬢ちゃんも、それをしまいな」
「でも、こいつを放っておいたら!」
「しまうんだよ、それを!」
目をつり上げたアリーが、ぴしゃりと言った。
「いまのを見ただろう。あれだけ屈強な奴らが一瞬で殺されちまったんだよ。あんたも死ぬつもりかい。託されたもんがあるんじゃないのかい。それを放っておいていいはずがないじゃないか!」
「でも」
「……カムールはねお嬢ちゃんが思うより広いんだよ。あたしらが居場所を言わなければ、この坊やは殿下の居場所を知り得ない」
ましてイリスは徒歩だ。逃げる時間も機会も、いくらでもあるとアリーはウィゼルの背中を軽く小突いた。
「へぇ、懸命ダぁ」
「あんなもん見せられちゃね、お慈悲にすがりたくなるってもんさ」
イリスはアリーをみつめると、何かに気付いたような顔つきをした。
「おばさん、左目に面白いもノをつけているけど。それ、ナニ。目に光の糸が絡みついているよウに見えるんだけど……左目はちゃんと視えていルかい?」
差し伸べられたイリスの手を、アリーは慌てて払った。
「ちょっと休めばまた見えるようになる」
「そう、結構不便そうだケどな。左側だけを異常なほど気にしていたし、矢も正確に放てないから、的の大きな馬をわざワざ狙っタんでしょ。今なら治してあげられるルよ」
ちょちょいのちょいと
「そんなことより大事なことがあるんだ。あたしの治療よりも大事なね」
アリーはよたよたと馬の近くにしゃがみこむと、そっと
「まずはこの子を大地に還さなくちゃならないね……」
「治せないの?」
「足が一本でも折れたら、馬はもう死ぬしかないんだよ」
二度と走れないんだと、アリーは馬の額を撫でた。
「よくやったよ、ありがとう。我らが
囁くような祈りを口ずさみながら、アリーは馬の首を短剣で深く切り裂いた。馬は少し暴れて徐々に動かなくなった。服の裾で短剣についた血を拭うと、アリーはウィゼルを振り返った。
「……お嬢ちゃん、迷惑ついでで申し訳ないけど、あんたの竜に乗せとくれ。それからあんたも離れるんだ。追手が来るよ」
「ボクには構わナいでくれ。待ち人がイるンだ」
「待ち人って、誰だい。イスハークならみんな引き上げたよ。あっちにいるのは騎兵ばかりだ」
怪訝な表情を浮かべたアリーに、イリスはまるで、何かを楽しみにしているような顔つきで彼方を眺め、笑った。
「騎兵じゃない。彼女サ」
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