第七話 「これって、何のためにやっているんだろうね」
夏休みが始まってから二回目の月曜日が過ぎる頃には、部員全員が射場の床に慣れていた。
加奈ちゃんは、大掃除前と同じように道場の中を元気に跳ね回っているが、ほとんど転ぶことはなかった。的前練習も射込も滞りなく進行していたが、これによって弓道が上達したかと言われると、まったくそんなことはなかった。さすがに西條先輩は半分ぐらいの的中率を維持していたけれど、一年生五人組は相変わらず立射の四本中、一中(的に矢が一本中ること)するのがやっとで、続けて的中しようものなら大騒ぎ。皆中(的に矢が四本中ること)に至っては『想像上の生き物』と同じぐらい馴染みがなかった。
「ところで、あの射場の滑りって何の意味があるのかな」
控室で着替えていた時に、全員がなんとなく考えていたことを加奈ちゃんが代弁した。
「滑りになれたら、なんかゲームのレベルアップみたいにぐいぐいっと的中率が急上昇するのかなと思って期待していたんだけど、前と変わらないよね。なんだか筋肉痛に耐えた日々が、無駄に感じられる今日この頃なんだけど、皆さんどうなのよ」
「そうだねー、前とはあまり変わらないよねー」
かおりちゃんが続いた。
「でもー、これってまだ『次のダンジョンに進むために、必須アイテムを集めている』段階なんじゃないかなー」
「あ、上手い。そう考えると納得できる」
加奈ちゃんが大きく頷く。つられて理穂ちゃんと早苗ちゃん、私も小さく頷いた。
(苦労した分、確実に何かの成果が現われてくるものと信じたい)
それが全員共通の本音だった。
三笠先生は、夏休みの初日である金曜日に弓道場全体の大掃除を断行し、翌週月曜日に射場をすべすべに磨き上げて、同日中に弓の張り方に関して指導を行い、火曜日には適切な弓の長さや扱い方について主に私に指導してくれた。先週はそこまでで何故か具体的な指導は一区切りとなり、水曜日から金曜日までは特にこれといった新たな動きはなかった。顧問の先生を迎えることで、これまでの怠惰な弓道練習が劇的に変わることを期待していた私たちは、なんだか肩透かしを食らったような気分で、先週の練習を終えていた。
(今日は月曜日だから、何か変わったことがあるのではないか)
月曜日はそのような「切れ目、変り目」を感じさせる何か底知れない力を持っている。夏休み中はあまり「曜日」を意識することがない私たちも、微妙に期待していた。
しかし、西條先輩がやってきて、全員の準備が完了し、練習開始が宣言されても、三笠先生は道場に姿を見せない。
私が来た時に竹弓が既に張られていたことから、先生が学校に来ていることは確かだった。それなのに、時間になっても姿を現さない――ただそれだけのことが、何だか気の抜けた雰囲気を部全体に生み出していた。
(先生、もう私たちの指導に飽きちゃったのかな)と考えてみたり、
(何か急な仕事が入ってそれどころじゃないのかな)と思ってみたり、
おそらく全員がそんなふうに、手持ち無沙汰な落ち着かない状態に置かれていたのだと思う。
だから、的前練習中に先生がガラス戸の向こうから現れた時には、なんとなく「ほっ」とした空気が流れた。
「遅れてご免なさい」
見ると、三笠先生は台車を押しており、その上には液晶テレビとDVDプレーヤーが載せられていた。
「社会科準備室から、配線を外して持ってくるのに手間取っちゃった。ちょっと準備で物音がするけど、気にせず練習を続けてね」
先生はそう言うと、弓道場の西側、神棚の下にある小さな机の上に、液晶テレビとDVDプレーヤーを設置し始めた。気にするなといわれても、さすがに目の前で繰り広げられる新たなる展開に、部員全員の期待は高まる。お預けをくらった犬のような心境だった。
落ち着かない気分のままで練習が終わると、三笠先生が言った。
「これから時間に余裕がある人は、ちょっとだけ残ってもらえないかしら」
「はーい」
全員が元気に返事をする。激しく振られる尻尾が見えるようだ。
「お腹が空いているかもしれないけど、我慢してちょうだいね。今から弓道の『体配』に関するDVDを流しますから、よくみて下さい」
――体配?
一年生全員が頭にはてなマークを載せる。そういえば卒業した三年生がそんな言葉を言っていたなあ、というぐらいの薄い記憶しかない。三笠先生はそんな私たちの「鳩が豆鉄砲を食らったような顔」を見て、
「あれ、みんな馴染みがなかったかしら?」
と、意外そうな顔をした。そこで西條先輩が背景を説明する。
「今の一年生は、あまり体配をうるさく言われていないんです。部員数がぎりぎりで、あまり厳しく指導してすぐ退部したらいけないから、という三年生の方針で」
「あらまあ、そうだったの。どおりでねえ――」
どのあたりが「どおりで」なのか、私たちにはよく分からなかったけれど、先生は急に眼を輝かせると、掃除の時と同じように高らかに宣言した。
「それじゃあ、これからまた新たに勉強し直しましょう!」
DVDの再生が始まり、見たことのない世界が幕を開けて、
一年生は(後で分かったが、一人を除いて)戸惑いの小道へと誘われてゆく。
*
「では、左足から」
加奈ちゃんがそう言いながら、道場北側の引き違い戸を開けて、左足で敷居を跨いだ。
県内有数の進学校だけのことはある。教わったものの吸収が早く、応用しようとする。私も今朝は、電車に乗り込む時の第一歩を左足から、降りる時の第一歩を右足からにしてみた。何のことか、と思われるかもしれない。これが、弓道の体配に関する練習の一つなのだ。
弓道の基本動作の一つに『左進右退』というのがある。(昨日初めて知った)
文字通り、前進や入場などの動作の始まりはすべて左足で、後退や退場などの動作の終了はすべて右足で行うことである。行射をする際のことなので、別に日常生活に応用しなくてもよいのだが、教わったことはすぐやってみたくなるのが人間心理だ。
「吸う、吸う、吐く、吐く」
私も道場に入ると、そう唱えながら歩いた。
これも体配の基本である『二足一呼吸』だ。(昨日初めて知った)
一回呼吸する間に二歩歩く。別に呼吸まで二つに分ける必要はないのだが、このほうが分かりやすい。お経のように唱えながら道具の準備をしていると、加奈ちゃんが合いの手のように言った。
「ひー、ひー、ふー」
「吸う、吸う、吐く、吐く」
「ひー、ひー、ふー」
「吸う、吸う、吐く、吐く」
「ひー、ひー、ふー」
「吸う、吸う、吐く――加奈ちゃん、テンポがずれる。ラマーズ法いらない」
「ごめーん」
そういながら、控室に入ろうとした加奈ちゃんの足が止まった。
「えーっと」
「どうした」
「この場合、入場なのかな、退場なのかな」
しばし考える二人。
*
昨日の練習後、三笠先生が準備したDVDを視聴した。
記録されていたのは、弓道愛好家の方が個人で作成した体配研修用の映像だった。『立った時の姿勢と座った時の姿勢、座った姿勢からの立ち方と立った姿勢からの座り方』から始まって、『正しい
それを見て、夏休みに入る前までは「すっかり弓道には慣れました」と思い込んでいた一年生五名は、実は「基礎の基礎すら満足に教えてもらっていなかった」という事実を目の前に突き付けられた。
一回目の映像が終わった後、私たちは声も出なかった。その様子を見た西條先輩は、
「本当にごめんなさい。三年生の指導方針は尊重しなければいけなかったのだけれど、三年生が卒業してからは私がちゃんと指導すべきでした」
と言って頭を下げてくれたが、私たちにはちゃんと分かっていた。
西條先輩が悪い訳ではない。西條先輩自身も、その先輩からちゃんと教えてもらったことがないはずだ。
知っていれば西條先輩のことだから、それをきっちり守っていたはずだし、私たちに教えてくれたはずだ。いつの間にか、最低限の「基本」すら指導できなくなっていた部の実力を、全員が思い知らされていた。
「実際に弓を引く際の動作については、これとは別にあります」
三笠先生はさらに追い打ちをかけるようなことを言った。確かに、映像で体配の模範演技をやっている方々は、弓と矢を持っていなかった。つまり、まだ道場内の基本動作に過ぎず、行射時の立ち振る舞いはこれとは別物だということを示していた。基本動作の映像だけで、一時間近くある。
続いて、三笠先生は何故かかおりちゃんのほうを見ると、話を続けた。
「ところで、浅沼さんは一応の動作の型ができているようですが、どこかで礼法を習われたことがあるのですか?」
「はい。親の勧めで小笠原流礼法の教室に通ったことがあります」
(――礼法、だと!?)
他の一年生の目が点になった。
確かに「小笠原流礼法」という言葉は聞いたことがあるが、実際にそれを習ったことがある人はあまり見たことがない。さすがはお嬢様、と他の四人が納得していたところに、三笠先生は苦笑しながら爆弾を落とした。
「ああ、それは多分、小笠原違いね。弓道に関係あるほうの『小笠原流』は、日本で一か所しか指導している場所はありませんから」
これには、西條先輩含め全員の頭に『はてなマーク』が灯った。
(え、どういうこと? じゃあ巷で見かける小笠原流礼法教室って何?)
「あの、私も仙台市内で礼法の教室を訪問したことがあるのですが」
西條先輩が困惑した表情で言った。さすがにここで、かおりちゃんに代わって突っ込めるのは、西條先輩しかいない。
三笠先生は、にっこり笑って全員の前に立ち上がると、
「そこでは正しい礼の方法を、こんな風に教わりませんでしたか」
と言いながら、両掌を前で重ねて肘を心もち外側に張ったポーズで、頭を下げた。私もその姿は見たことがある。デパートの店員や飛行機のキャビンアテンダントがやっている礼の仕方だ。
「はい、確かにそう習いました」
と西條先輩は頷く。三笠先生は腰を下ろして正座すると、ゆっくりと話を続けた。
「それは、弓道家が言うところの『小笠原流礼法』ではないやり方なんです」
――デパートの店員や飛行機のアテンダントの礼は、礼法にはない。
(じゃあ、あれは何なんだ?)
意外な話に全員の目が点になった。
「あの、先生、では先程の礼は偽物なのですか」
いち早く立ち直った西條先輩が訪ねた。
「詳しいことは私も言及できませんが、例えば西條さんが礼法の教室を開いて『西條流』を名乗ったとして、それだけで偽物と呼ばれることになりますか?」
「うーん、どうでしょうか。私なりの礼法ということであれば、おかしいことではないように思います」
「では、西條さんが古来より続く武家の礼法の伝承者として、家元として礼法の教室を開いたとしたら、どうでしょう?」
「それは偽物ですね。私はそんな伝承者ではありませんし」
「では、古くからの礼法を現代風にアレンジして、現代女性向けに礼法を教えたとしたらどうでしょうか」
「それは――」
西條先輩は考え込む。そして、
「偽物とは言えないかもしれませんが、古くからの礼法の伝承者が別にいた場合には、そちらに無断でという訳にはいかないですね」
「その通りです。一般的に小笠原流礼法と呼ばれて、カルチャースクールで教えられているのは、本来の意味での小笠原流礼法とは異なるもので、さきほどの手を重ねた礼は本来の意味での小笠原流礼法にはありません。現代風にアレンジされたものと言えるかもしれません」
「先生、あの、あの」
加奈ちゃんが正座しながらも、上体だけぴょんぴょんと弾みながら手を挙げる。
「はい、篠島さん、なんでしょう?」
「先程から、『本来の意味での』という言葉が連発されていますが、本来はどちらさまですか」
「本来の意味での小笠原流礼法は、弓道の一流派である小笠原流が伝承者です」
小笠原家の初代は、源頼朝の弓術、馬術、礼法の師範となり、『平家物語』にも名が登場する小笠原長清である。甲府近辺の小笠原村(現「南アルプス市」)が発祥の地で、今日「小笠原」の姓を名乗る系統は、この小笠原長清を祖としている。
後醍醐天皇の時代に、武家の生活全般の様式を『修身論』および『体用論』としてまとめており、これが小笠原流礼法、正式には『弓馬術礼法小笠原流』の基礎となった。江戸時代に、徳川秀忠の弓馬術礼法師範となったことから、明治維新まで幕府の弓術、馬術、礼法師範を務めており、神事で有名な『
正統は明治維新頃に断絶しており、現在の宗家は本家とともに幕府の師範を担っていた小笠原平兵衛家が担っている。『小笠原流礼法』は宗家である弓馬術礼法小笠原流の商標登録であり、それ以外の者がこの名称を使用することは出来ない。
「要するに、家元争いで分派しているけれど名前は本家が握っている。しかし、なんだか勝手に名乗っている傍流のほうが商売上手で有名だぞ、ということですか」
早苗ちゃんの身も蓋もないまとめ方に、三笠先生は苦笑した。
「まあ、そういう言い方もできるかしら」
「じゃあ、先生。弓道の体配は正式な小笠原流ということになるのですか」
今度は理穂ちゃんが質問した。
「そういうことになりますね。だから、一般的な意味での小笠原流礼法とは少々違うところがあるので、そのつもりで練習してみてくださいね」
「はーい」
*
と、いう訳で今日の練習では全員がなんだがぎこちない動きをしていた。
巻藁練習からして、正しい動作というのがあるので、先生からいちいち説明を受けながら、実践してみる。
まず、巻藁の前に立つ。
三歩進んで、巻藁と自分の立ち位置が弓一本分ぐらい離れたところで、足踏み。
行射した後は、やはり三歩で巻藁に歩み寄って、巻藁を左手で抑えながら矢を抜く。
そうしないと矢が曲がったり、巻藁が落ちたりする可能性があるからだ。
そのまま後方に三歩下がってから一礼して場所を次の人に明け渡す。
的前練習でも、最初に射場の後方で一列に並ぶ。射場の外から入場するのが本来ながら、道場にそんな余裕がないので、ここは略式で。
左足から一歩踏み出すと、右足を神棚に向けて左足をそろえて一礼。
礼の前には軽く神棚に目を向けなければならない。
本座の一歩手前の位置までしずしずと歩み、左足で方向を的に変えながら一歩、本座に踏み出して足をそろえる。
その場で一礼して、三歩で射位まで進む。
行射が終わったら右足から射位を出て、右斜め前方の本座まで移動してから方向を変えて、入場した位置へ。
退場する際は、左足を神棚に向けて右足をそろえ、やはり神棚を見て一礼。
方向を変えると右足から退場する。
学校の弓道場では入場と退場位置が決まってなかったので、射場の後方にビニールテープで仮の入退場位置が決められることになった。
なんだか幼稚園のお遊戯みたいなぎくしゃくした動きで、三笠先生から、
「そこは右足」とか、
「そこで左足から方向かえて」とか、
細かい修正を受けながら、その日の練習を終えた。
妙に気苦労の多い一日だった。
*
「これって、何のためにやっているんだろうね」
三笠先生に教わった『竹弓を引く前に必ず確認すべき点』を順番に辿っていると、後ろから加奈ちゃんの声がした。顔を向けてみると、彼女は道場の床を摺り足で歩きながら、右に向きを変えたり左に向きを変えたりしていた。
「ほら、九十度に左に曲がる時の動作なんだけど、先に前に出した右足の踵に左足の爪先が当たる寸前、あるいは実際に当たったところで、そのまま右足踵の線より前に出ることがないように九十度に左足を踏み出す、って先生が言ってたじゃない。この『踵に爪先が当たる寸前』とか、『踵より前に出ない』とかの細かいルールって、何の意味があるのかなって、ふと疑問に思ったりしない?」
「うーん、あんまり考えたことないや」
「そっか」
少しだけ微笑むと、加奈ちゃんはまた曲がり方の練習を始めた。
彼女は普段の行動からとても移り気な性格だと誤解されやすい。陽気で天真爛漫なキャラクターは、四人兄弟の末っ子で、上が全員お兄さんという家庭環境が生み出した生存本能のなせる業である。情報収集の素早さも、元々は上の兄の力関係を把握するために身に着けた、気の使い方の一つだ。実際のところ、彼女は真面目で辛抱強い。教わったことは、何かとツッコミは入れるものの、人よっりも熱心に練習を繰り返している。だからこそ、「なぜそんなことをするのか、しなければならないのか」という根源を突き詰めずにはいられないところがある。自分が理解できないことを指示されると、人一倍やるけれど、納得はしていない。
私は「こんな約束事があるんだなあ」と、鷹揚に考えていることに対しても、加奈ちゃんは「どうしてそんな約束事があるんだろう」と考えてしまうことがある。
言われてみれば、確かにおかしいと言えばおかしい。別に右足の踵に左足を寄せずに、右足の踵より左足を前に出して曲がっても、動きとしては支障がないはずだし、先生に教わる前の私たちの動きがそうだった。それを間違えていたからといって、弓を引く際に何か大きな支障になる訳ではないし、正しい体配を行なったからといって、的に中るようになるわけでもなかった。
加奈ちゃんの気持ちは分かる。
「なんのために、こんなことをするのか」という原理原則への疑問は感じたことはなかったけれど、「こんなことで弓が上達するのかな」という漠とした不満のようなものは、私もふと考えたことがあるからだ。そして、おそらく一年生全員が考えたことがあるに違いない。
なぜなら、以前にもあった「気の抜けた雰囲気」が、また部全体を覆っていた。
私たちがまったく体配について知らないことを自覚してから、十日間が過ぎていた。夏休みは中盤になっているのに、三笠先生はいまだに私たちの動作についての細かい指導を続けていた。
三笠先生を顧問に迎えて、私たちは今まで知らなかったことを知ることが出来た。それは刺激となって、各自の弓道に対する取り組みの姿勢が変わり始めているのも感じる。しかし、やはり私たちは「もっと弓道が劇的に上達するのではないか」と考えていた。もっと平たく言ってしまうと、優秀なコーチがやってきて、的中するために必要な『技術』を私たちに伝授してくれ、それによって私たちが夏休みの間に急激に上達して、ばんばん的に中るようになる、ということを期待していたのだ。それが、一向に技術的な指導がないことで、肩透かしを食らったような気分になっていたのだ。
そして、今回は月曜日を経過しても、状況は何も変わらなかった。
状況が変わったのは、その日の練習終了後だった。
「先生、別に私は行儀作法の勉強がしたい訳じゃないんですが」
早苗ちゃんが三笠先生に向かって、ストレートにそう言ったのだ。彼女は、他の人が思っていても口に出せないことを言うのが、自分の役割だと考えているところがある。だから誤解されやすいのだが、彼女は決して悪い人間ではない。悪いのは口、言い方だけなのだ。その時も、単に、
「もう少し、技術的なことも教えてほしい」
という要望を伝えたかったはずなのに、どうしても彼女が言うと顧問の指導方針に対して反旗を翻したようにしか聞こえないのだ。
部員全員の動きがとまる。
ところが三笠先生はまったく動じなかった。
「では、何を勉強しにきているのかしら」
と、一歩間違えると売り言葉に買い言葉としか思えないセリフも、先生が言うと言葉通りの純粋な疑問にしか聞こえなくなる。
「もちろん弓道に決まっています。私たちはもっと的に中るようになりたいのです」
「弓道の目的は、的に中ることだと」
「それ以外になにがあるというのですか」
言葉だけだ、早苗ちゃんが先生のやり方を批判していて、先生がその早苗ちゃんを冷ややかに扱っているようにしか見えない。しかし、実際には早苗ちゃんの要望に対して、先生がそのポイントを確認しているだけであり、どうも二人の間ではそのような認識で統一されているらしいのだ。
周りで見守っている人間には大変に心臓に悪いやりとりが続いた後、最終的に先生が言った。
「分かりました、それでは明日は、特別講師を呼びましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます