Consider5 花盗人とオキザリス

蝶が群れる謎の転落死体と誘拐された少年

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天上てんじょうから美しい星々と、満ちた月が見守っていた。

頬を撫でる風は、昼間の暑さを忘れたように心地良い冷たさだった。

鼻にかかったような、どこか不満げな声が、すぐそばで聞こえた。

腕の中、身じろぐ小さな体。

あやすように抱えなおすと、落ち着いたのかまた穏やかな寝息を立て始める。

腕にずっしりと重く、温かい。

このままずっと抱いていれば、汗をいてしまいそうだ。

胸に手を当てると、手のひらを力強く押し返す鼓動こどう

まだ合わせた手のひらの半分しかない、小さな手のひらは柔らかい。

薄いまぶたの下に隠された瞳は、まだけがれを知らない。

気がつけば溜息ためいきを吐いていた。

何億と言う種の中から、奇跡といえる確立で選ばれ、生れ落ちる命。

何年も繰り返してきた営みであるのに、つい忘れてしまっていた。

柔らかな髪を後ろに撫で流し、あらわになった額に口付ける。


君に、幸あらんことを。


腕に力をこめる。


星へ届くように、抱えた花束を放り上げる。


月が悲しげに雲に隠れた。









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