荒れ野の公爵と緑の研究員

西

プロローグ

 昔、祖父の家に行った時のことだ。

 彼の大切なものを受け継ぐと決めたのは。


『ガル。お前にいいものを見せてやろう』

 夕日が照らす中、祖父はにこにこ顔でこちらの手を引き歩き出した。

 どこに行くのか聞いても教えてもらえず、少し拗ねたのを覚えている。

『ふふふーん、秘密だ。だが、お前なら絶対に気に入るだろうよ』

 どこか楽しそうに言う祖父は見るからに浮かれており、足取りも軽かった。

 そうして着いた場所には。

『これって……!』

 青青とした野菜達が活き活きとして植わっていたのだ。

『どうだ? この辺りでは有り得ない光景だろう?』

 子どもみたいに自慢してくる祖父に、ただただ首を縦に振り肯定することしか出来なかった自分は首振り人形の様だっただろう。

 しかし、それほど感動したのだ。

 あの瞬間、夕日に照らされた緑に、心を奪われたのだ。

『不毛の土地と言われた儂の領地でも、やっと元気に育ってくれるようになった。お前さん、これを見てどう思う?』

 祖父が感想を求めて来たので、感じたままに答えた。

 綺麗だ、香りがする、土の色が違う。

 幼い頃は口下手で、思い返せば月並みの表現しか出来ていなかった。

 そんな言葉でも祖父は真剣に聞いてくれ、頭まで撫でてくれた。

『そうかそうか、ガルにも緑の素晴らしさが解るか!』

 本当に緑が好きなのだと判る、とてもとて嬉しそうな笑顔をこちらに向ける祖父。

 自分も彼の様になりたいと思った。

 だからだろう。この後、祖父から言われた提案にすんなり返事が出来たのは。


『ガル。お前さん、儂の跡を継がないか?』


 答えは、決まっていた。

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荒れ野の公爵と緑の研究員 西 @nisi

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