口伝え

「猟でこの山に入るならば、狐に気をつけろ」


 私は父に、そう口伝くでんされていた。


「奴らは恐ろしい大男や見目麗しい女、時には家族の姿に変じてやってくる。そういうものと行き会ったなら、必ず地面に落ちる影を見ろ。どれほど上手く化けたところで、影はどうしても狐のままだ」


 だからそれに従って、山中に現れた妻を撃った。影が狐の形をしていたからである。

 しかし「あっ」と悲鳴を上げて倒れたのは本物の女房だった。

 はしこく逃げる尻尾を呆然と見送りながら、私は悟る。

 狐の側にも口伝くちづたえはあったものらしい。

 あの畜生は妻にではなく、妻の影に化けていたのだ。

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