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 近所の神社のお祭りに行った。

 さして大きくない神社だけれど、数件ながら屋台も出る。父に手を引かれ、私はうきうきと境内けいだいに足を踏み入れた。

 まずはお参りだと言われ、お賽銭を入れてから鈴に繋がる麻紐を引く。

 が、それは鳴らなかった。

 鈴は確かに揺れているのに、しかしこそりとも音を立てない。まるで消音されたテレビ画面の中のように現実味を欠いた光景だった。

 だからだろうか。

 怖い、恐ろしいという感覚よりも不思議の方が先に立って、私はただその現象を見つめていた。


 直後。

 何を思ったのか、父が私の手の上から紐を掴んだ。

 そのまま勢い良く揺すぶると、鈴は思い出したように大きな音で、がらんがらんと鳴り騒いだ。

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