ふたつ頭

 何かの気配を感じて、ふと目が覚めた。

 隣で眠る恋人の悪戯かと思って視線をやるが、彼はこちらに背を向けて眠り込んだままで、身動みじろぎの気配すらない。

 ぼんやりと眠たい目をしばたたき、そして私は身を強張らせた。

 彼の頭の隣に、もうひとつ頭があった。

 カーテン越しの月光の所為で物の形が朧に見えているのだと、そう思いたかった。けれどできなかった。

 視線を察したように、彼でない方の彼の頭がぐるんと私を振り向いたからだ。


「この男はやめておけ」


 ぐちゃぐちゃの顔の女はそう言って、またぐるんと元の形に戻った。

 それがもうこちらを見ていないのは承知の上で、私はかくかくと必死に頷く。震えながらベッドを抜け出し、大慌てで服を纏うと部屋を出た。

 そうして恋人だった男の電話番号もメールアドレスも、そのまま全て消去した。

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