獲りに行く

 田舎の祖母の家には、よくわからないものが祀られていた。

 薄暗い蔵の中のひな壇めいた祭壇の上に、それは飾られている。首と手足を切り取られ防腐処置をされたグロテスクな毛皮ある生き物の残骸である。

 私には、どうしても猫の死骸にしか見えない代物だった。

 だが帰省するたび、祖母のみならず父も母も、毎日三度これに膳を供えて拝む。


「なんで猫の死体なんて拝むの?」


 そう尋ねたら二人はぞろりと怖い目で私を見た。


「猫のわけないだろう。  様だ」


 両親の答えは、いくら聞いてもノイズが入って聞き取れなかった。繰り返し説明を求める私に父と母は顔を見合わせ、


「この子には才能がない」


 嘆息して、以来弟ばかりを可愛がるようになった。



 そんな親から逃げるように私は家を離れ、一人暮らしを始めた。

 数年して、皆が祖母の暮らす田舎に越すという報せが来た。

 ずっと連絡を取らないでいたが、それでも家族だ。これを機に復縁するのもいいかもしれない。

 そう考えたら私は盆にまとまった休みを取ると、祖母の家に電話を入れた。


「ここが休みだから、久しぶりにそっちに顔を出そうかと思うんだけど」

「よくないな。そこはよくない。その日程だとうちには誰もいないよ」


 けれど電話口の弟はにべもない。


「誰もいないって、なんでまた。旅行にでも行っているの?」

「今の  様がとうとう駄目になってしまったからね。新しいのを獲りに行くんだ」


 弟の声には、父母と同じノイズが入っていた。

「何処に何を」とは訊けぬまま、私は通話を終えた。





※以上は伊藤大二郎様よりの原案「遠い田舎の祖母の家では、どう見ても猫の死骸にしか見えないものを祀っている」を元に創作したものです。

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