言いくるめる

 最近話題の標識がある。

 なんでも見る人によって表示の変わってるんだそうだ。そんな標識危ないだけじゃないかと思うんだけど、意外やこれが未来を知らせてくれると評判だ。

 例えば「とまれ」になっていて結婚詐欺に引っかからず済んだとか、逆に「すすめ」を見て強気の志望校を受けて合格しただとか、「Uターン禁止」を見て投資を避けて難を逃れただとか。

 そんな取って付けたような話が、あたしの耳にいくつも聞こえてきている。

 真偽はともあれ話のタネにはなるだろうと、そう思って足を運んだ。


「……のはいいんだけどさ、あんまし面白くなかったんだよね」

「普通の標識しかなかったの?」


 やっと文庫本から目を上げて、友人はそう問うた。


「ううん。ちゃんと変わった標識が見えたんだけどさ。その標識が変わっててさ」

「意味わかんないよ」

「だーかーらー、全然見た事ない、ヘンな標識だったんだってば」


 あたしが見たのは、黄色地に「15%」って数字の入った黒の直角三角形が描かれているものだった。そう説明すると彼女は取り出したスマートフォンをちょちょいと弄って、


「これ?」


 と画像を見せてくる。


「あ、うん、これ。これこれ!」

「『この先勾配あり』だって」

「購買?」

「坂がありますよって事。菓子パンは売ってません」

「え。じゃああたしの人生これからずっと下り坂なの!?」

「下りならずっと苦労なく楽に歩いていけるよ。エスカレーター式だね」」

「そっか。や、でも待って。あたしが見たの、こっちの上りのヤツだったかも。ひょっとしてあたしの人生この先キツいばっかなの!?」

「運気急上昇だよ。やったね」


 あ、そうなんだ。なんか安心すると同時に、こんなので一瞬でも不安になったのが馬鹿らしくなってきた。


「まあ未来予知なんてそんなものだよ。気にしないくらいでちょうどいいんじゃない」

「んー、そだねー。所詮標識だもんねー」


 そうそうと頷いて友人はスマートフォンをしまい込み、それから「これに懲りたら危ないとこに行っちゃ駄目だよ」と話を結んだ。





※以上は雪麻呂様よりの原案「見る人によって表示を変える標識」を元に創作したものです。

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