舗装路

 地獄への道は善意で舗装されているという。

 何を知ったような事を、と私は思っていた。


 その考えが変わったのは事故に遭ってからだ。重傷を負った私はそれきり意識不明の植物状態になった。

 けれど不可思議な事に事故直後から、私は私の上に、ちょうど幽霊のように浮いていた。周りで起きている事も全て知覚できている。

 そして何より最悪な事に、体の感覚は残留したままだった。

 全身がひどく痛む。辛くて苦しくてどうにもならない。

 あまりの苦痛に延命装置を引き抜こうとしたが、駄目だった。手のひらはすり抜けて、物体には触れもしない。


「今にきっと目を覚まされますよ」

「回復を信じて待ちます。いつまでも」


 家族と医者の、そんな優しいやり取りが聞こえる。

 ふざけるな。早く殺してくれ。早く楽にしてくれ。お願いだから、早く、早く、早く。

 こいねがうけれど、私には私の意思を伝える能力がない。何ひとつない。

 私は、いつまで生き続けるのだろう。

 いつまで、生かされ続けるのだろう。


 地獄への道は善意で舗装されているという。

 その通りだと私は思う。






※ 以上は大原英一様よりの原案「人の本性は善、じゃ」を元に創作したものです。

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