連れて行く

 近所の公園には噂がある。

 その街灯下のベンチには、少女の霊が出るのだという。母親に「ここで待ってなさい」と置き去られて、言いつけ通りにいつまでも待っている子なのだという。

 だからもしここで女の子を見かけても、女性は決して声をかけてはならない。母にすがりたい彼女が、後をついてきてしまうからだ。


 そんないわくつきのベンチで、友人が自殺をした。

 彼女を知る人は皆深く同情をした。夫の不倫と離婚、そして流産。畳み掛けるような不幸に見舞われたばかりなのを聞き及んでいたから。

 直接彼女を知らない人々は、その死を件の幽霊話と結びつけ、「母親として連れて行かれてしまったのだ」と心無く噂した。

 

 私はといえば。

 友人であったのに、彼女に何一つしてやれなかった私はといえば、事実をどう受け止めたものか、未だに整理のつかないままでいる。


『娘を迎えにいきます。ごめんね』


 それが、彼女からの最後のメールだった。


 母と思い込まれたのか。

 我が子と信じ込んだのか。

 いずれにせよ少女の霊の噂は、以来ぱったりと絶えた。








 ※本作は雪麻呂様より原案を頂戴し、創作したものです。

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