火車

明後日みょうごにちまででね、それからお迎えが来るらしいのよ」


 唐突に母が言いだしたので、「何の話?」と聞き返した。しかし母は答えずに、にこにこと笑っている。

 冗談の好きな質であるから、またぞろ何か思いついたのであろうと放っておいたら、その日のうちに形見分けから葬式の手配までもの一切を終わらせてしまった。

 流石にこれは悪質だと抗議をしたが、「いいからいいから」と受け流して聞かない。

 それからたちまちに二日が過ぎて、朝、起こしに行ったら母はもう息をしていなかった。

 心不全との事である。眠るような顔だったので、苦しみはしなかったのだろう。



 どうにも変わり者であったと通夜の席で語らっていたら、突然斎場の霊安室から大きな音が鳴り響いた。すわ盗人かと皆で駆けつけたが、そこに人影はなく何かを盗られた様子はない。

 ほっとしたその時、どうしてか「お迎えが来る」という母の言葉が蘇った。

 駆け寄って棺の顔見窓を開ける。

 するとそこからもう、母の遺体はなくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る