牛歩

 仕事に追われて、盆には実家に帰らなかった。

 すると死んだ婆ちゃんの夢を見た。

 実家と言えば遠いような響きだが、社宅からは電車で数駅だ。墓のある寺もそこからすぐの距離なので、初日は「ああ、無精をしたから向こうから顔を見に来たのか」くらいに思った。

 だがそれから数日、毎晩婆ちゃんが夢に出る。

 しかも恨んでいるとか怒っているとかの風情ではなくて、どうやら困り果てている様子なのだ。


 朝、起きてから布団の上で腕を組んで考えた。

 そうしてひとつ思い当たった。

 うちの婆ちゃんは大層な方向音痴であった。恐らく俺のところへやって来たのはいいが、そのまま帰り道がわからなくなったのではあるまいか。


 幸い、気づいた翌は盆の代休だった。

 朝一でスーパーに行ってナスを買い求め、割り箸を刺して牛を作る。手のひらサイズのこの牛と一緒に、これからちょっくら、実家と墓を詣でてこようと思う。

 電車は使わず婆ちゃんの思い出を辿りながら、のんびり牛の歩みで行くのがいいだろう。

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