踏んではならぬ

 決して足を入れてはいけない。

 そう言い含められている畳が、うちの実家にはある。

 年末の大掃除で、お神酒みきを供えて張り替える時以外は、家人の誰も近づかない。

 何があるとは伝えられていない。

 ただならぬの禁だけがあって、固く守られていた。


 その実家に、先日空き巣が入った。

 盗人は、よりにもよってその畳を踏みつけたものらしい。両足を血まみれにして家から転がり出てきたところを近所の人に見つかって、敢え無く御用となった。


 盗人の傷は刃渡りの長い、鋭い刃物による刺傷ししょうで、足の裏を下から刺し貫かれたものであったそうだ。

 おびただしく出血して部屋中ひどい汚れようだったというが、件の畳にだけは血の痕ひとつなく、綺麗なままであったと聞いている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る