生える

 帰ってくると、居間の壁から腕が生えていました。

 肘から先は壁の中に埋もれていますが、突き出した手の小ささと肌の柔らかさから、おそらくは子供の腕だと思われました。

 またか、と私はため息をつきました。


 いつもの糸鋸いとのこを取り出すと、腕を切り落す準備に取りかかります。

 鋸で引いても、腕からは血も何も出ません。それでも腕の下にはシートを引いておくのは、なんとなく床が汚れそうな気がするからです。

 悲鳴の代わりか、手は激しく握ったり開いたりを繰り返してました。気にせずにごりごりやっていると、腕はやがて床に落ち、数度身悶えしてから消えました。


 最初の頃は手間のかかったこの作業ですが、今は数分で片付くようになりました。

 とはいえ、疲れて帰宅した後の肉体労働は嫌なものです。それが夏場ともなれば尚更です。

 でも越してきた当初より、手の生える頻度はずっと低くなってきています。

 そのうち、生えてこなくなるかもしれません。

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