招かれる

 零時を過ぎた頃だったろうか。

 空腹を覚えて、いい時間ではあるがコンビニに買い出しに出た。

 途上、坂道の下を通り過ぎる。その折に、ふと何かの気配を感じて振り仰いだ。


 夜闇を払って、四角く光がこぼれていた。こんな時間であるのに、煌々と照明を灯して、玄関を開け放っている家があるのだ。

 戸口から漏れる光と俺の視線とは丁度直角の関係になっている。俺の立ち位置からでは、玄関の奥は窺い知る事はできない。

 その窺い知れない場所から、ぬっと腕が突き出た。

 そうしてそれは、ひらひらと手招きをした。

 肘から先だけであるのにまるでこちらが見えているかのような仕草だった。ぼんやり一歩踏み出しかけて、はっと我に返った。

 かぶりを振って、コンビニに向かった。

 ひらひら、ひらひら。

 肩ごしに振り返ると、手はまだ差し招いていた。



 やはり気になって、復路でも坂の上を見てしまった。

 玄関はまだ開いていて、同じように光が漏れている。そしてまるで察したように、またしても腕が突き出された。

 今度は招かれる前に目を逸らし、足を早めて家路を急いだ。

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