文字を成す

 日中は台風が荒れ狂っていた。

 夕方を過ぎて強い風雨は収まったが、路上にはその蹂躙じゅうりんの痕として、吹き散らされた木の葉や枝が散乱している。

 その片隅で、奇妙な小石を見つけた。

 一見玉砂利たまじゃりのようだったが、白いばかりか半透明に透き通っていて、しかも僅かな燐光を放っている。

 物珍しくさでポケットに入れて家に帰った。


 夜半、ばたばたと何かが窓に当たる音で目を覚ました。

 またぞろ風が強くなったのだろうかと、カーテンを開ける。

 するとベランダ窓に、無数の蛾が群れたかっていた。

 しかもそれらは、ただ無秩序に張り付いているのではなかった。まるで意図したように整然と列を作り、その列は文字の形を成していた。


『カエシテ』


 あの石の事だと、すぐさまぴんと来た。

 蛾の群れた窓を開けるのはぞっとしなかったから、玄関のドアを薄く開け、その隙間から小石を外へ放ってすぐ閉める。

 恐る恐るで窓を振り向くと、そこにはもう一匹の蛾もいなかった。

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