目を覆う

 とある休日の午後だった。

 昼飯を終えて2階のベランダでぼんやり煙草をふかしていたら、


「うわっ!?」


 と間の抜けた悲鳴がした。

 何事かと身を乗り出して見下ろすと、路上で背広姿の男が目を抑えている。


 いや、よく見れば違った。

 男は両手をだらりと脇に垂らしている。彼の顔を覆っているのは、この距離でも分かるくらいに真っ赤にマニキュアを塗りたくった、白い女の手のひらだ。

 ただしその手に続いて在るのは、男の肩に乗る肘までだった。そこから先の女の体、どこにも存在していなかった。


 あれはまずいものだとすぐに分かった。

 身を引いて、部屋に逃げようと一歩下がったその途端、視界がすとんと閉ざされた。

 まるで誰かの手のひらに、両目を覆われたかのようだった。

 思わず、間の抜けた悲鳴が漏れた。

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