喜ばせたい

 夕焼けの帰り道、私の行く先を大入道が遮った。

 私が子供なのもあるだろう。だがそれを差し引いても、入道は恐ろしく大きかった。上背うわぜいもそうだが幅も大人二人分ぐらいがあって、道をすっかり塞いでしまっている。

 いかつい顔を何とも言い難い形に歪めながら、口の中で何か呟いている。


 怖かったが無視する方がよっぽど怖い気がしたので、耳を澄ませていると、


「あ、ああ、て、て、だせ、ああ、ああ、ま、やる。ああ、あ、めだま、やる」


 どうやらたどたどしくも、「手を出せ、飴玉をやる」と言っているようだ。

 やはり拒む方が怖かったので、おずおずと手を出した。すると入道は破顔して、その歪めた顔は笑みなのだと知れる。

 ぬうと入道の手が私の手の上に伸び、そしてでろりと丸いものが落ちた。

 

 その正体を確認して、私は悲鳴を上げて泣いた。

 手渡しされたのは目玉だった。粘液にまみれた眼球がひとつ、手のひらに乗せられていたのだった。


 火のついたように泣く私を見て、入道は困り果てた顔で頬を掻き、落胆したように肩を落とした。

 それから首を振りつつみるみる縮んで、やがて道に溶け込むようにして、その大きな姿は消えてしまった。

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