詮索無用

 呑み過ぎて歩くのがだるくなって、最寄駅のホームのベンチでしばらく休んでいた。

 するとどこからともなく、か細い子供の声がした。


「ねえ。ねえ」


 繰り返し呼びかけるその声は、小ささのわりに耳につく。

 親は一体何をやっているのか。

 不機嫌に見回したが、しかしホームに親子連れはいない。代わりに、ベンチの影にぽつんと置き去られていたつつみを見つけた。

 大きさは丁度弁当箱くらい。やはり弁当箱と同じように、安手の布で簡易にくるまれている。


「ねえ。いつ出してくれるの。ねえ。お母さん」


 声はそこからしているようだった。

 好奇心に駆られて手を伸ばす。

 が、それよりも早く、ぬっと伸びてきた腕があった。枯れて細い、枝のような腕だった。

 奪うように包みを取り上げ、自分の胸にかき抱いたのは、ざんばらに白髪を振り乱した老婆だった。

 老婆はじろりと白く濁った目で一瞬こちらをにらみ、すぐにきびすを返すと驚くほど速い歩みで立ち去った。

 余計な真似も詮索せんさくもするなと、そう告げられたような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る