泡立つ

 帰ってきて、風呂に入ろうと湯を張った。

 我が家の風呂は旧式だ。全自動の給湯ではなく、ガスの元栓を捻って着火するところから始めねばならない。大した手間ではないのだが、面倒な時はそれすらも面倒であるから、ものぐさの観点から人間の文明は偉大だと思う。


 それから炊飯器をセットして湯上りに呑むビールとツマミの準備をしてと雑事に立ち回り、ひょいと覗くと程良い加減に湯が溜まっている。

 ではと思って服を脱ぎ、再び浴室の扉を開けたら、浴槽の湯が泡立っていた。


 ぐらぐらと煮立っていたのではない。

 炭酸飲料のような細かい気泡が底から立ち昇ってきて、水面でぱちぱち、ぱちぱちと弾けているのだ。

 およそ十数秒。思考停止して見つめていた間中、ぱちぱちの音は絶え間なく続いた。


 気味が悪かったので勿体無もったいないが湯は抜いて、シャワーだけ浴びて寝た。

 ひょっとしたらシャワーの湯もまた泡立っていたかもしれないが、分からなければ問題はない。知らぬが仏というヤツだ。

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