嫌っていない
幽霊とは現象だ。
それはもう終わってしまったものの残響に過ぎなくて、終わったその時のままの状態で停止している。
何もできない。どこへも行けない。そういう、ただあるだけの現象だ。
何かを新規に記憶する事はできないから、仮に言葉を交わしたとしたって、ものの数秒で忘れ果ててしまう。後はただ、薄まって消えていくばかりだ。
新しい出会いはそれに何の影響も
新しい思い出はそれに何の変化も与えない。
そうと知っていても、分かっていても。
生まれた土地へ戻ってからの4年間、俺は毎年ここへ来て、この幽霊と言葉を交わす。いつも初めて会うような顔をして、他愛ない世間話をしてから帰る。
幽霊には6歳になる子供がいるのだが、その子にはどうも嫌われてしまっているようなのだという。「墓参りにも来やしねぇ」と、毎年にように冗談めかして、しかし寂しく愚痴っている。
「まあそういう事もあるさ。でも嫌われてはいないんじゃないかな」なんて、カップ酒を
俺が顔を出すようになってから4年。死んでからだと、通算何年になるのだろうか。
幽霊の──親父の姿は、年ごとに薄くなってきている。今年はもう、すっかり後ろが透けて見えた。
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