噛み痕

 遭難していた漁船が発見された。

 通信機器類は全く無事で、船内には水も食料もまだ潤沢じゅんたくに残されていた。救助を呼べる、待てるどころか、自力航行すら可能な状態だった。

 けれど船は棒切れのように波間を漂っているばかりで、乗組員は、ただの一人も見つからなかった。


 調査の為、船は曳航えいこうされ引き上げられた。

 すると船底一面にびっしりと、おびただしい数の傷があるのが分かった。無論船に対して致命的なものではない。

 けれどそれはどう調べても、人の歯の痕だったのだという。

 何者かが、海中で船に噛み付いた痕跡であったのだという。

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