招く

 叔父の葬儀に参列した折の事である。

 通夜が済み、一渡りの片付けをしていると、斎場の入口に親子連れが立っているのに気づいた。

 私が目礼すると、あちらも礼を返した。

 親子共に喪服であるところからすると、通夜の刻限に間に合わなかった人物であろうか。

 追い返すのも情がない。親類縁者もまだ中に残っているし、挨拶くらいはできるだろう。「どうぞ」と声をかけて斎場の戸を開けた。


 それからしばらくして、「あっ!」と大きな声が響いた。

 何事かと駆けつけると、叔父の棺の周りに人の輪ができている。親戚の一人が帰り際、見納めをしようと立ち寄ったら、中にあるべき遺体が消え失せていたのだという。

 上へ下への大騒ぎになったが、叔父はとうとう出てこなかった。


 その混乱の中で誰かが、


「家の者が招かなければ、アレは入れないはずなのに」


 そう呟いていたのが、妙に記憶に残った。

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