話の分かるヤツ

 大学の友人たちが集まって、俺の家で鍋をする事になった。

 近所のスーパーで具材を買い込んで、数人で駄弁りながら歩いていると、向こうから物凄い早さで走ってくるものがある。

 俺はそれに見覚えがあった。

 タロウマルだ。

 うちの大家の爺ちゃんの飼い犬で、爺ちゃんの家は俺の借りてるアパートのすぐ近くなので、よく一緒に散歩しているのを見る。その見た目通り、混じりっけなしの雑種である。


 そのタロウマルとぱっと目が合った。あっちも俺を見覚えていたのか、その途端だっとこっちへ向かって走ってきた。どうしたものかオプションの爺ちゃんなしの単独行動だ。

 そして結構でかい犬なので、その速度で突っ込んでこられるとちょっと怖い。

 が、タロウマルが寄ってきたその途端、ぱっと映像が見えた。家の裏で倒れている大家の爺ちゃんとういう絵面えづらだった。


「悪い、ちょっと行ってくる」


 荷物を友人に押し付けて俺は駆け出し、裏庭の家庭菜園で熱中症を起こしてブッ倒れていた大家の爺ちゃんは事なきを得た。



 それから俺は、犬語が分かるヤツとして一目置かれるようになった。

 居合わせた友人たちの話によると、俺はタロウマルがオンオンと吠えるのに合わせて「そうか、分かった」「どこだ?」「よし行こう」などと返答をし、そのまま走っていったそうなのである。

 気でも違ったのかとまず驚いて、それが人命救助に繋がったと知って二度驚いたらしい。

 俺にしてみればぱっと絵が浮かんだだけなので、会話の記憶なんて一切ない。逆にびっくりである。


 悔しいので以来、タロウマルと顔を合わせるたびに何くれと話しかけてはいるのだが、あの時のような意志の疎通はできずにいる。

 タロウマルはのべーっとした顔をしつつも尻尾を振ってくれるので、まあ一応、俺に好意がないという事はないはずである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る