勾配こうばいを登っていると、ちょろちょろと水音が聞こえた。

 どこからするものだろうと目をやったら、丁度坂道の上から、背丈をゆうに越える大波が襲いかかってくるところだった。


 思わずうわっと悲鳴を上げて、頭を覆ってしゃがみこむ。

 が、いつまで経っても波どころか水の一滴すらかかる気配がない。

 恐る恐る顔を上げると、大波は影も形もなかった。

 虫がどこかで鳴いている。路面も服も、どこも少しも濡れていない。


 ただ辺りには強く、磯の香りが立ち込めていた。

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