口止め料

 一人きりの旅先で宿を取った。構えのいい、大きな旅館である。

 観光には時期はずれだから客も少ないだろうと思ったのだが、どうやらそうでもないらしい。

 どやどやと大勢の浴衣の男女が、私と入れ違いに宿から出て行くところだった。


「どこかで祭りでもあるのですか」


 あの人数が行くのだから、私が知らないだけで著名な催しがあるのかもしれない。

 そう思い宿の者に尋ねてみた。しかしそんなものはないとの返答である。ならばあの団体客は、と続けたら、顔色が変わった。

 日が落ちたら明日の朝まで夜明けまで、絶対に部屋から出ないようにと念を押された。特に予定もなかったので、私は大人しく首肯した。


 その夜、部屋に運ばれてきた夕食は大層豪勢で、頼んでいない酒までがついていた。

 サービスです、との事だった。

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